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「侑、ちょっと前からなんかやたら機嫌ええよな」
今日の登校中、治に言われた言葉をふと思い出した。
「めっちゃご機嫌やん、何かあったん?」
「んー、あった。でも教えへん」
「はあ?」
教えてたまるか。あそこはAちゃんの場所。俗世のゴタゴタの入れん場所。そんで、俺はそこに立ち入れる唯一の人間やもん。機嫌もよくなるやろ。今日も今日とて、俺はAちゃんととりとめのない話をしとった。
「Aちゃんってカラオケとかも行くん?」
「行くよ。誘われたり、あとは一人でも」
「意外やわ、え、J-POPとか歌ったりするん?」
「うん。歌なら何でも好き」
意外。なんやろ、そういうやつは歌わんと思っとった。クラシックって言うんかな? そういうんばっかやと思っとったのに。カラオケとかも行かなそうやったのに。
「え、じゃあこれとかも歌えるん? なんやっけ、“あーああーああーあーあー”、みたいなやつなんやけど」
歌詞ド忘れした。加えて俺の調子っ外れの歌。クソ、普段はもっと歌えとった気もするけどなんせうろ覚えの曲やった。じゃあなんでそんな曲選んだん、って話なんやけど。ぱっと思い付いたのがそれやったし仕方ない。
「あ……わかるかも」
「マジですか?! 今ので?!」
「うん。あ、歌詞は知らないんだけどね」
軽い咳払いをした後、Aちゃんは俺の隣の席で姿勢を正す。あれ、ここで歌うんかな。Aちゃんはいつも座って歌うことはないんやけど。そういえば何で立って歌うんやろ。
Aちゃんから紡ぎ出される声は相変わらず澄んでいて、それは最近流行りの曲を歌うんでもそうやった。普段と歌い方は変わっとるけど、それでも楽しそうなんはいつも通り。楽しそう、やけどそれはふざけとるとかじゃなく。
ワンフレーズをAちゃんが歌い終えた。
「合ってた?」
「それ!! やっぱAちゃんて何歌っても上手いんやなあ!」
Aちゃんがカラオケ行くっていうの、最初はあまり信じとらんかったけど本当に行くんやな。きっと、物凄く上手いって騒がれるんやろな。それを想像したら、何となくもやもやした。他の人も知っとるんやな、この事。
「……どうしたの? 難しい顔してる」
「あ、や、歌上手いのええなって! 俺あんま上手くないんで!」
「……練習してみる?」
「へ?」
瓢箪から駒、というより棚からぼたもち。
とにかく、俺の適当な言い訳から歌の練習は始まった。
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えま(プロフ) - 春塩さん» コメントありがとうございます!! 尊敬するだなんて嬉しいです照れます……ひたすら楽しく執筆したものですが、春塩さんにも楽しんで頂けたのなら幸いです(*´∇`*) (2018年11月13日 21時) (レス) id: 8f82649d25 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - 杏采さん» コメントありがとうございます!! 一気読みなんて大変でしたよね……!! 嬉しいです(*´ω`*) これからも頑張ろうと思います!! (2018年11月13日 21時) (レス) id: 8f82649d25 (このIDを非表示/違反報告)
春塩(プロフ) - 完結おめでとうございます。尊敬するお二方の合作、本当に素敵でした。侑くんと夢主のやりとりがとても可愛くて切なくて、最後までずっと引き込まれていました。素敵な作品ありがとうござました。執筆活動応援しております! (2018年11月13日 17時) (レス) id: 7ae3000a58 (このIDを非表示/違反報告)
杏采(プロフ) - 完結おめでとうございます。憧れのお二方の合作と聞いて即座に反応して一気読みしてしまいました。ありふりた言葉しか出てこないのですが、本当に素敵な小説をありがとうございます。これからも頑張ってください! (2018年11月13日 17時) (レス) id: d19c07683e (このIDを非表示/違反報告)
ウ タ(プロフ) - kyo10aaa1877hanさん» 更新遅くなってしまって申し訳ないです、お待たせしました!(*¨*) (2018年9月12日 11時) (レス) id: 12a750fc54 (このIDを非表示/違反報告)
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