宝石の少女【ブラッククローバー】

No.37 : 悟られぬよう ページ41

「いいと思う」


男の口から発せられた言葉は意外なものだった。
今の今まで、Aは後ろの男のことを、単細胞やちんちくりんとしか認識していなかった。無神経で言葉を選んだことなんてない男だと思っていた。ただの無神経チビではなかったのか。

自分の胸に絡まっていた鬱屈の蔦が、ナイフでジョキッと切られたようて、Aにはとても衝撃的だった。


ふと後ろから、男の視線を感じた。
硬直して動かないAを不審に思って口を開けた気がして、声を発せられる前にAは急いでドアノブをひねった。

逃げるように右の道に進む。


「そ、そっち便所だぞー！？」


男に言われて歩を止める。それから何事もなかったかのようにくるりと踵を返すと、Aは全速力で反対を走った。


走り去る際に男のうわっ！だかなんだかしらない驚嘆の声が聞こえたが、Aは聞こえないふりをして走り続けた。


　


　
♧


　


　
あの男は、もしわたしがあのまま黙り続けていたら、何と言うつもりだったのだろうか。
それとも、何も言わずにわたしの横を通り抜けていただろうか。


…わからない。


…あの男がわたしのことをどう認識しているかも、どうしてわたしをここに連れてきたのかも＿＿＿


…ただ、Aは誰かに自分の気持ちを悟られることを恐れ、無意識のうちに拒否してしまった。


　

　

　
♧


　
　


　
浴室のドアが勢いよく開いた。
白く漂っていた湯気が、開いた衝撃で分散されていく。
　
目を細めて見ると、ドアの前にAがタオルをわしづかみにして立っていた。


「A！意外と早かったわね。………って…」


「…どうしたの？放心してるように…見えるんだけど…」

　
ノエル達の声が、脳をスーッと通り抜け、左耳から抜けていく。
Aの頭は、次の言葉を紡がれるのを受け付けなかった。


タオルを持った右手が後ろにのけ反る。もういいや。と、自暴自棄に似た気持ちを心に灯したAのモーションを、ノエル達は呆気に取られたように眺めていた。
ぐっと足に力を入れると、腰を捻り、勢いよく右手を前に投げやった。手から放たれた純白のタオルが、ノエル達の頭上めがけてとんでくる。

なっ…。と驚いた声を上げる２人に対してAは、心ここにあらず。というようにドアの前に棒立ちしていた。

　

「…Aー！！一体…、なにしてんのよーっ！！！！」

　

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今日は海!エビさんカニさん…海鮮料理…!

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