おまじない【CS】 (ページ49)

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兄は誰かを守って死んでしまった。ぼくを置いていってしまった。
時間が遅くてぼくが寝てたから、「行ってきます」は誰にも言っていかなかった。

「さようなら」も言えなかった。

自分の命は惜しくはなかったのか
自分の命はその人と比べて軽かったのか
本当に現場に仲間は誰もいなかったのか

聞きたいことは山ほどあって、いっぱい浮かぶのに、何1つとして言葉に表せないのがもどかしい。否、表せないのではなく、聞いても答えなど返ってこないとどこかで分かっているから言葉にしないのかもしれない。
自分のことさえも分からないくらいに混乱していて、目の前の風景はぼやけて見えないのに、兄だけは見えていた。

兄が笑いかけてくれることも怒ってくれることも、一緒に楽しむことも悲しむことも、
今までの普通だと思っていたことは普通ではなかったのだと。
日常は一瞬で崩壊するものだと言うことを学んだ。

〜

小さい頃から兄の背中を追ってきた澪は、その背中はとても大きなもので、ずっと手が届かないのではないか思っていた。
しかし、澪は高校1年生となり、ボーダーメーカーの道が開かれた。4年前の兄と同じ場所に立っており、兄は此処から先へと進むことはできなかった。兄はずっと、此処から先に進めずにいて、どんなに手を伸ばしても届かないと思っていた背中には手が届いてしまい、今は隣に立っている。澪の中では歩みを止めてしまった兄は、此処から先にはもういない。

＿此処から先は、1人なんだ

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