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Side You
定時。
私は今日もまた定時に帰る。
前に勤めていた企業では定時帰りなんて存在しなかった。
QuizKnockに入れて、本当に良かった。
福良には感謝している。
だからこそ、私は福良から離れなければいけない気がした。
これ以上迷惑をかけてはいけない。
「ただいま。」
重い気持ちのまま帰ってきた私に追い討ちをかけるように、あいつは私の心を抉った。
玄関には女物の靴。
奥から聞こえてくる知らない女の声。
連れ込んだのか。
もはや冷静に物事を判断している自分が怖い。
そっと自分の部屋に行って、キャリーケースに必要なものを詰める。
仕事道具、衣類、化粧品。
思い出は全て置いていく。
半分ほどしか荷物がないキャリーケースを持って再び外に出る。
もう戻る気はない自分の家に別れを告げる。
これから、どうすっかな。
今の私に行けるところは、オフィスしかなかった。
とりあえず行ってみるか。
ついさっきまで辿ってきた道を折り返す。
空は少しずつ暮れてきていた。
途中でコンビニに寄って、夜ご飯を買って。
もう誰もいなと思っていたオフィスの執務室を一応挨拶しながら入っていく。
「お疲れ様でーす。」
自分に言い聞かせるようにへんに陽気な声を出そうとして逆に不自然になっていたかもしれない。
「え、A！？どうした？」
さっきまでの推測は大外れ、執務室には私の幼馴染がいた。
バタバタと私に駆け寄ってきて、不安げな瞳を向けてくる。
「あぁ、忘れ物取りに来た。」
スルスルと出てきた嘘に罪悪感を覚える。
「嘘、でしょ。こんな荷物持って。」
半ば呆れながら私の荷物に目をやる福良。
「うん、嘘。他の人はいないの？」
「みんな帰って、俺だけだよ。」
「そっか。今日、ここ泊まるの？」
「うん、その予定。」
多忙だな。
私にもっと仕事を回してくれてもいいのに。
「私も泊まる。シャワー、入ってくる。」
キャリーバックから下着を出して、オフィスに常備してあるタオルを持ってバスルームに向かう。
化粧を落として、軽くシャワーを浴びて、鏡を見た時初めて私は泣いていることに気がついた。
なんで…？
そんなに裕介が家に女を連れ込んだことが嫌だった？
違う、そんなことはない。
あいつにはもう愛なんてない。
じゃあなんで？
無理やり涙を拭いて、そのまま福良がいるであろう執務室に戻る。
「私も、手伝うよ福良。」
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作者名：星ノ瀬豹&歌音 | 作成日時：2022年7月31日 18時
