【QK】一番近くて、遠い場所。〔Fkr〕 (ページ3)

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Side You

「ご馳走様でした。」

ご飯を食べ終え、入浴も済ませた頃。
ガチャガチャと乱雑に鍵を開ける音が部屋に響いた。

「ただいま。」

「おかえり。」

玄関に少しだけ顔を出せば、安堵した様子を見せる“あいつ”こと佐々木祐介。
一応私の恋人ということになっている。同棲だってしている。
昔は本気で愛していたのだ。

「飯は食べてきたからいいや。風呂だけ入ってくる。」

テーブルに置いてあった一膳の箸を下げる。

しばらくソファーでゴロゴロしていると、風呂を上がった祐介が顔を見せる。
そして、しれっと私の隣に座ってくる。

愛おしそうに私を眺める瞳は偽物だった。

「A。愛してるよ。」

その言葉だって、一体何人に吐いているんだ？
さっさと風呂に入ったのは、他の女の匂いを消すためだろう？

「ありがと。」

全部わかってる。
わかってるけど、今の私には独りになる勇気がないんだ。

「ねぇA、今日の夜良い？」

「答えは聞いてないんでしょ。」

こうやって私は、また嘘を吸い込み生きている。

ーーー翌朝

少し痛む腰をさすりながら、可愛げのないパーカーとズボンを着る。

昨日からほったらかされたままのカバンを手に取って、オフィスに出勤する。
変わり映えのない日々。
何か大きく変わるのを心のどこかで望みながら、変化を受け入れることができない自分がいる。

執務室のドアを開ければ、そこには温かい仲間たちがいた。

「Aさん、おはようございます！」

「山本君、おはよう。朝から元気だね？」

若者はいいな。
まだ何にでもなれる。

私はもう、変われない。
自分のデスクに着いて、パソコンを立ち上げれば仕事は始まる。

私、仕事好きなのかも。
この会社がホワイトなのもあるけど、余計なことを考えなくていいから。

気がつけば時刻は12時、お昼の時間になっていた。
大きく伸びをして凝り固まった体をほぐしてからキッチンにむかう。

と、そこにはやたら肩幅がある男が1人立っていた。

「A、今日暇？」

「予定はない。」

「みんなで飲み行くけど、一緒にどう？」

久しぶりに行こうかな。

「行く。」

よかった、とふにゃりと微笑む福良を横目にコーヒーを淹れる。
あたりにフワッといい匂いが立ち込める。

少しだけ、楽しみにいしている自分がいた。