斬るのも刺すのも御手の物其ノ弍 (ページ15)

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念仏１３行目ページ15

森を走って、坂を降って、砂利道を走った。枝や葉で頬や腕、足に傷を負ったが大した程の傷ではない。

くっそ、山を降れば村かなにかがあると思ったが…！

走っても走っても、村らしきものも、更には人が居そうな気配すらない。

『…くそっ！』

宛もなく走り回るわけにもいかず、オレは息を整えるために松の木の根元に腰掛けた。

『っ…はぁ、はぁ…畜生…』

オレは仲間一人助けることが出来ないのか？オレはたかがひとつの命を救うことは出来ないのか？
くそ…オレは隊長失格だ…！
だが、このまま引きかえす訳にも行かない…
鶯丸に無茶をさせたくはない、あいつを待ってる奴がいるんだ…

「もし、」

思考を巡らせていると、頭の上から不意に声が聞こえた。
顔をあげれば、そこには僧が立っていた。

「もし、何を悩んでおられるのですか？」

オレは言ってはいいものなのかと少々迷った。
だが、一人でこの罪悪感と不安からは逃れることも出来ずに、ポロリと口をこぼした。

『…包帯を持ってはいないか？』

「包帯とな？」

『ああ、オレの仲間が腕を怪我している。その他にも水を欲している者や、食べ物を欲している者が居るんだ。』

「それはそれは、さぞお困りでしょう。
私のもので良ければ、持って行ってください。」

『しかし、それではお前の分が…！』

「良いのですよ。
私は、仏に仕える身。ですので、お困りの方を救うことは、私にとっての当たり前です。
それに、私個人もはやくお仲間さんを助けてあげて欲しいのです。
だって、あなたが汗だくで息を切らしながら必死に助けようとするほど大切な方なのでしょう？」

そう言って、僧はオレに白い包帯と水を差し出してくれた。
オレは、受け取るか否か少々悩んだが優しく微笑む僧をみて、その包帯と水を受け取ることにした。

『ありがとう、これであいつらを助けることができる。』

「いいえ、礼には及びませんよ。」

『では、オレはこれで失礼する。』

「はい。貴方のような心優しき方に出会えて良かった。またどこかでお会いできるのを楽しみにしております。」

そう言って、その僧は北北西に向けて歩いていった。