黄色い悲喜劇 (ページ2)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:153 hit

虹細工ページ2

｢虹って、どうやって捕まえるの｣
｢いい質問じゃ。嬢ちゃんには特別に教えてやってもよかろう。まず、2枚の鏡を用意してな、かあさんの使う鏡台と手鏡でいい。その鏡台をじっくりと見詰めるんじゃ。いいかな、ぼやっとじゃなく、じっくりとな、そして、小さな穴を捜すんじゃ｣
｢鏡に穴なんて、あいているの｣
｢は、は、は、すぐにわかる所になどあいておらん。ゆっくりと時間をかけてすみずみまで捜すんじゃ。いいか、気を長くしてな。必ず穴があいておる。見付けたら、その穴めがけて、霧吹きで水滴を吹きかけるんじゃ。勢いよく長い間吹きかけねばならん。鏡は水で濡れるが、途中でやめちゃいかん。辛抱強く続けていると、穴から虹らしきものが、ぼうっと現れはじめる。そのときじゃ、すかさずもう一枚の手鏡を、少し離れた所に鏡台と向き合う形でかざしてやる。すると、虹は吸い寄せられるように、手鏡の穴へとみごとな橋を渡すのじゃ。初めは危なげでゆらゆらしておるが、やがて、堂々とした虹に変わるはずじゃ｣
｢へえぇ｣
わたしは、鏡から鏡へとかかる鮮やかな虹を思い浮かべてうっとりとした。
｢そうなればこっちのもの。はさみで切り取るもよし、かみそりで切り抜くのもよし、細工するなら早いうちがいい。初めは柔らかいが、すぐにそのウサギのように固くなるからな｣
｢わたしにも出来るかしら｣
｢気長にやるのがコツじゃぞ｣
｢ふうん｣
｢どれ、そろそろじゃな。話しておるうちに、やる気もでてきたわい。そのウサギ、あげるから大事にしておやり｣
｢ありがとう、とても欲しかったの｣
｢は、は、は、そんなに喜んでもらえるなら、あげた甲斐がある。その代わりと言ってはなんだが、嬢ちゃんが髪に付けている金色のヘアバンド、わしにくれないかね｣
｢あっ、これ、どこにでもあるプラスチックのヘアバンドよ。わたしのお気に入りなの。でも、おじいさんにならあげてもいいわ｣
｢は、は、は｣
三日月形の口はたちまち満月になり、ひげがわさわさ揺れた。
永遠野平の駅に着くと、うまい具合に雨が上がっていた。見渡す限りの草原に、爽やかな風が吹き渡っている。
｢嬢ちゃんと会えて楽しかったよ。じゃ、これでな｣
じいさんは、帽子をちょっと持ち上げてにっこり笑うと、すたすた歩き出した。しばらく行ってくるりとふり返ると、東の空に向けてヘアバンドを投げた。
｢あっ｣
わたしは空を仰いだ。
雨上がりの空に、大きく鮮やかな虹の架け橋。
赤に橙、黄色に緑、青に藍に紫。