隠し事なんて。【梵天】 (ページ34)

今日:8 hit、昨日:12 hit、合計:40,690 hit

1 ページ34

「着きましたよAさん」

『ん
　思ったより早かったな』

「飛ばしました
　怪しまれないように法定速度ギリで」

『…運転好きなのか？』

法定速度ギリにしては快適だった。

「小学5年の時から父親の専属運転手やってましたんで
　別に運転好きなわけじゃないけど得意です」

『小学5年だと…11歳か
　思いっきり無免許だな』

「何言ってるんですか、犯罪組織ですよ
　そこらへんにいる不良だって無免許ノンヘルでバイク乗り回してますよね」

『たしかに』

言われてみればそうだ。

犯罪組織なんて存在自体が法に反している。

今更無免許だのノンヘルだのと言っていても意味はない。

「さっ、行きましょうよ
　なんでしたっけ、鶴蝶さん？のお見舞い」

『ねえココは？』

「あ、酔って助手席で寝てますよ」

『酔った？
　なんで？』

「風景の流れるスピードに耐えられないって言ってました」

どうやらこいつは後部座席の乗り心地だけを良くする能力を持っているようだ。

持っていても大して使い道のない能力だが。

仕方がないので病院に向かって歩き出す。

「あれ、置いてっちゃうんですか？」

『無理に連れてって吐かれても困るからな
　またあとで自分で来るだろ』

「ふうん」

自動ドアを抜け、広いエントランスホールに入る。

前を見れば、小走りでこちらにやってくる太った中年男。

「あれ誰ですか？
　めっちゃ太ってますね」

『あいつ？
　この病院の院長だよ
　梵天が金握らせてんの』

「闇医者ってやつですね」

『そう』

小声でそんなことを話していると、やっと院長が私たちの前に来る。

背が低く太っているので全体的に雪だるまのような体型だ。

「一瀬様
　よくお越しになられました
　鶴蝶様のお見舞いですよね
　しっかり最上階のVIP室にいらっしゃいますので
　どうぞこちらです」

院長はそこまで早口に言うと、さっさと歩き出す。

「なんかせかせかした人ですね」

『ああ
　でもまあいい奴だぞ
　手術の腕もある』

「お名前は？」

『そんなの知らん
　初対面から院長呼びだ』

「ですよね」

『ほら、行くぞ』

私たちは院長の後を追い、鶴蝶の病室へ向かう。