君を堕とせるなら。【usss】

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(……止まった……？)

遠目から、しかも途中から見ているため、Aは突然動かなくなったゲームに首を傾げる。


しんとした静寂に、坂田の声が波紋を描いた。


「ポーカー。それは知略と戦略の頭脳戦」

美しい微笑を湛えたポーカーフェイスでセンラが続く。

「この世界の掟(ルール)は、たったの4つ」


「ウつか、」


「シくむか、」


「サぐるか、」


「セめるか。」


うらたから順に言った後は、志麻が当然の理を口にするように、どこか気だるげに。

「52枚の女神に愛されるのは、ひとりだけ。」

そして、うらたが問いかける。

唇に、声色に、確信と嘲りを浮かべて。



「この勝負、賭けますか？」



義治の腕は、拳を握りしめすぎてぶるぶると震えていた。掌に爪が食い込む痛みなど、今の彼は感じていない。

彼を苛んでいるのは憤怒と憎悪、そして――決して覆せない目の前の敗北。

「……っくれてやる。あいつがそんなに欲しけりゃくれてやる！！」

席を立ってテーブルにバンッと手札を叩きつけ、義治が踵を返す。

「……！」


――義治とAの目が、合った。


義治の瞳の純黒が憎悪一色に塗り潰され、Aは両足を釘で地面に打ち付けられたように固まってしまう。

早足で距離を詰めてくる義治。

(あ……どう、しよう、私――)


「おーい」

ぐいっとAの腕を掴んで引き寄せた小柄な影が、Aを片腕で優しく抱きとめる。

Aが少し見上げた先で、彼女を支えているうらたは義治を睨むように目を細める。

「くれんだろこの子。もうてめえの所有物じゃねえ。つか、元からてめえのじゃねえけど」

感情的になり、無意識に抱きしめる力を強めるうらた。

その側に志麻が寄り、吐き捨てるような口調で言う。

「ほんっま腹立つんよなあ……この子はこの子やろ。勘違いもええとこやぞ、ああ゛？」

坂田がAを庇うようにその前に立つ。

「今後一切Aに関わらんといて。――心配いらんよ。俺らが大事にするから」

「っ……」

彼らの気迫に押されて後ずさった義治のネクタイを掴み、顔を突き合わせてセンラが睨む。

「二度とAの前に現れんな。何かしたら次こそ完全に潰すからな」

義治にしか聞こえないように抑えられて響く、地を這うような低音。

センラがネクタイから手を離すと、義治は出入口の扉へ一直線に逃げていった。

扉の閉まる音が――終了(ゲームセット)の合図がホールに溶けた。

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