４ ページ29
「そやけど、まだ眠くないんです。
気持ちが昂っているせいか・・・
崇裕さん、ずっとこうして腕に抱いてて？」
「ええよ。
ずっとこうしてるから」
「崇裕さん、子守唄、歌ってくれませんか？
そしたら、眠れます」
「照れるなあ・・・」
望美ちゃんにねだられたら、弱い。
この辺りでは、よう聞いた子守唄と、唱歌を。
ひそやかな声で口ずさむ。
背中を撫でているうちに、
望美ちゃんは、すうっと眠りに落ちていった。
「眠られへんのは俺の方や」
寝返りを打つたびに、
はだける腿。
真っ白な襦袢の胸元。
見るな見るなと、己を戒めては、欲に負け。
「ほんまに。
人の気も知らんと無邪気なお嬢ちゃんや」
こうしておっても、
大阪の小瀧家のことが気になってる。
藤井様は、どのように、
小瀧大佐を説得されるおつもりなんやろうか。
情けないけれど、今は藤井様に託すしかない。
戦地に赴く前に、必ずや、大佐に結婚を認めてもらうんや。
流れる星の雨に誓った、約束。
命を賭して、望美ちゃんを守り抜くと・・・
大阪に帰った俺たちを待ち構えていたのは、
悲しい運命やった。
あの日の朝早く、
藤井さんの芦屋の別荘に、
小瀧大佐の使いの者がやって来て、
全てが露呈したらしい。
大佐はそれはもう、
烈火の如くお怒りで、
望美ちゃんは、
東京の別邸に幽閉されてしもてん。
会われへんなってから、既に半年。
大佐に向けて、
赦しを乞う手紙を書くために、
独学で読み書きを学び始めて、
日々、拙い便りを送っているけれど、
返事など来たこともない。
小瀧道場への出入りも禁止されてしもた。
そんな淀んだ思いのまま、
年は明け、焦る思いのまま、明治３７年を迎えた。
「濱ちゃん、ほんまに申し訳ないことをした」
今や、すっかり親しい友人のようになった流星に、
もう数百度目かの謝罪を受ける。
「流星、頭上げてくれや。
流星のせいやない。
一晩だけでも幸せな時をくれて、感謝してる」
下宿の窓の向こうは、
冬の様相を示す、大阪の町。
二人して、火鉢を囲んで、
温めた熱燗を酌み交わす。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 257人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
fool(プロフ) - みーこさん» 良かったです〜💕間違っちゃいない2でひっそりスタートしております💕楽しんでもらえるよう頑張りますね💕 (10月3日 14時) (
レス) id: 5c064e1f18 (このIDを非表示/違反報告)
みーこ(プロフ) - foolさん» こっそりひっそり読ませてい頂いてます…！✨アルファオメガ良きです…🥰お忙しいと存じますのでご無理なさらずに…💦楽しみにしてますね！🫶 (10月3日 14時) (レス) id: 262a392ad7 (このIDを非表示/違反報告)
fool(プロフ) - みーこさん» 遅くなり申し訳ありません。そろそろスタートしたいと思います🥰アルファオメガでも良いですか？お返事お待ちしてます。まだ読んで下さってるかなあ…遅くなり申し訳ありません💦 (10月3日 13時) (レス) id: 5c064e1f18 (このIDを非表示/違反報告)
fool(プロフ) - tmさん» 遅くなりすいません💦今日からスタートしたいと思います💕青桃、最終的にはくっつけても大丈夫でしょうか？間違っちゃいないの短編集でとりあえずはスタートしたいと思います。よろしくお願いします😍 (9月20日 16時) (レス) id: 5c064e1f18 (このIDを非表示/違反報告)
fool(プロフ) - 蒼乃碧さん» 了解しました😊勝手に緑→赤の両片思いの方向で考えてました💦サブなので出てくる場面ない裏設定でも良いんだけど書きたくなってきました笑楽しんでもらえたら嬉しいです〜 (9月2日 9時) (レス) id: 5c064e1f18 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：fool
| 作成日時：2022年7月11日 16時
