星の雨

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「そんな・・・
そないなことありません。
崇裕さんは立派な方です。
私が惹かれた人やもの」


「戦に出て、必ずや、望美ちゃんに釣り合う男になるから」


軍人の娘やもの。

お母様の生き様を間近に見て育ったんやから。


軍人の妻として生きるのに、
どれ程の覚悟が必要かは、

誰より知っているつもり。


世間では、
北の大国、露西亜が、
朝鮮侵略を企てておるという噂で持ちきり。


近頃では、

阻止するのは、
我が国日本帝国しかないと、

まるで戦を待ち望んでいるかのような風潮さえある。


私には難しいことは分からへんけど、

英国はじめとする諸外国に唆されてるようやと、
お兄様がおっしゃってた。


私はただもう不安でしかなくて。


お父様やお兄様、

そして、誰より大切な崇裕さんが、
出征されるようなこととなったら・・・


無事にお帰りになられるまで、
生きた心地もしいひんやろう。


「もしそんなことになったなら。
私は大阪の街でお待ちしております。
必ずや、生きてお戻り下さいね」


私にはそうとしか、告げられる言葉もない。


「戦は近いうちに始まるやろう。
その前に、結婚式を挙げたい。
大佐に必ず認めてもらおう」


「はい」


「望美ちゃん、誕生日おめでとう。
柄やないけどな、贈り物があるねん」


崇裕さんが、照れた顔して差し出してくれはったのは、

あの日、百貨店で惹かれた、真珠のかんざし。


「ありがとう存じます」


「つけてみてもええか？」


崇裕さんが結った髪のりぼんを解いて、
かんざしをつけてくれはった。

不器用な手つきにさえ、ときめいてる。


「よう似合うてる。
ほんまに、なんて形容してええか分からへん程。
望美ちゃんは綺麗や・・・」


「恥ずかしいです、そんな、」


目を伏せた時に、崇裕さんの手が、肩に回って。


予感めいたものに、どきんと胸が鳴る。


ゆっくりと近付く影。


優しく触れた唇は、少しひんやりしてた。


「望美ちゃんが、誰より大切や。
何者にも代えられへん」


「私も同じ気持ちです」


もう一度、口づけを。

願う私は、はしたないおなごやろうか。


ねだるなんてこと、出来へんけれど。

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