２ ページ38
.
声をつまらせて泣くAの手を取ると、少し身体が強張った後にAが急に身体を引いた。
振り解いた手ですぐにオレを玄関の中に引き入れてドアを閉める。
視線を合わせたその目は涙に濡れているけど、そんなに優しいものじゃない。
「どうして、何を考えてこんな所に。誰かに見られたらどうするつもりで、こんな」
「……Aのいる所が知られちゃうから？」
「違うよ、私の事なんかどうでも良くて。でもマークは、」
声を詰まらせるAをじっと見ながら言葉を待っていると、胸の前でぎゅっと手を握り込んだAが眉尻を下げた。
ひどく悲しそうな声と表情が、ずしりとオレの心臓を捉える。
「……どうしてこんな所まで。悠太くんまで巻き込んだの？」
「ごめん」
「私は顔も見たくなかったのに、もう会えなくても良いって。本当にそう思ってたのに」
震えるような息を飲みこんだのが見えた。
そりゃ人の目を気にして静かに暮らしていたのに、こうやって押し掛けてくるなんて迷惑だよなぁ……と当たり前な事を考えてしまう。
一瞬、どうして自分がこうも臆病になってしまったのかと頭を抱えそうになった。
それでも、ずっと言えずにいた言葉はが身体の中でひどくうるさく聞こえて暴れ始めるから、もう今はとてもじゃないけど立ち止まれない。
「A、聞いてほしい」
「マーク、」
「オレはずっと、昔からAの事が好きなんだ」
Aの肩がぴくりと跳ね、またその瞳から涙が零れた。
一世一代の告白はもしかしたらAの足枷になりかねないのに、こういうのは大抵言った後に気付くんだから本当に最悪だと思う。
罪悪感が募っていくのを感じながらもじっとAを見つめていれば、やがてゆっくりと口を開いた。
「知ってたよ、マークが私を好きだって」
「、なっ、えっ……！？」
「だから離れたところにいなきゃだめなのに、私たちは、」
どうして知ってるんだと問い質したいのに、首を振るAにそれが出来ない。
Aは雨粒みたいに流れていく顔を手で拭い、項垂れるように肩を落として無理やり笑みを作る。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1263人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さっちゃん(プロフ) - 作品読ませていただきました。途中胸が苦しくなるほど、とても良い作品でハッピーエンドで終わり良かったです。またトキメキと良い意味での胸の苦しさを求めて何度も読もうと思います。素敵な作品をありがとうございます。 (9月26日 22時) (
レス) @page49 id: 585b81384e (このIDを非表示/違反報告)
ちるぬな(プロフ) - 初めてこの作品を読ませていただきました。言葉遣いからストーリー構成まで、ほんとうに好きです。素敵なお話ありがとうございます。これからまた何十回と読ませて頂きます^_^ (9月20日 21時) (レス) @page49 id: 7c0a70e250 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» 私こそすみません…！作品の方また楽しんでいただければ幸いです！ (2021年8月31日 11時) (レス) id: 9dd39ae13b (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - せのさん» そうだったんですね！失礼いたしました...！ (2021年8月30日 21時) (レス) id: ef764b671d (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» こちらこそ読んでくれてありがとうございます〜〜！！Twitterはしてないので教えられず……！ (2021年8月30日 16時) (レス) id: 01bd2f8507 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：せの
| 作成日時：2021年8月2日 0時
