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「残念だけど夜になる前に家に戻ることにしてるの、防犯上ね」
「そう、そっか」
「あと、これは内緒なんだけど……今から悠太くんが来ることになってて。用意をしないといけないから」
「……ヒョンがここに？」
「聞いてなかった？」
「いや、今初めて……」
「マークは行き先を誰にも言わないで来たの？悠太くんが知ってたら止めてたと思うんだけど」
「えっ！ああ、まあ……でも、ヒョンが来るならオレも一緒に」
「ううん。マークは私と会わなかったことにしよう。ここで会ったことは、誰にも言っちゃダメだよ」
「どうして」
「私の事を忘れてほしいから。最初から、誰もいなかったみたいに」
Aはその残酷な言葉を穏やかに、簡単に言ってのけたあと、オレ達の間にあった会計伝票を自分の元へと引き寄せた。
途中にコイントスでどっちが奢るか決めたものだ。
Aが負けて払う事になったけど、それでもオレが出そうと思って、そう決めていたのにAの手を引き止める事すら出来ない。
「A、」
「ねえ、マーク」
見ればAが、とろりと溶かすように目尻を優しく下げた。
Aと会うまで、自分はAから嫌われたんじゃないかと思う日が何度もあった。
だからAに避けられて、さよならも言わずに離れていったんじゃないかって。
だけどこの目を見て、きっとそうじゃなかったんだと思う。
「私は昨日、何もない所で転びそうになったから辞めたって言ったでしょ？」
「……言ってた。実は嘘だった、とか？」
「ううん、それは本当。でもね、本当はあの時辞めたくないって思ったし、隠そうともしたの。どうにか取り繕ってでも、絶対ここにいなきゃダメだって」
だったらどうして。
なんでAは辞めたくないのに辞めたんだ。
あんなに大切にしていたものを全部手放してまで。
「そこまで来て私は初めて、自分が恋をしていることに気付いたの」
「、Aが……？」
「そう、びっくりするよね。好きな人といたいから、あそこに居座ろうと思ったの。でも本当はこんなこと、あっちゃダメなのにね」
Aは肩を落とし、力無く笑う。
自分はそれに笑いもできず、かと言って何か声を掛けてあげる事もできない。
ああ、だからそうだったんだと、心の中で納得したふりをして、Aの言った言葉をうまく飲み込もうとするだけだった。
(翌日・完)
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さっちゃん(プロフ) - 作品読ませていただきました。途中胸が苦しくなるほど、とても良い作品でハッピーエンドで終わり良かったです。またトキメキと良い意味での胸の苦しさを求めて何度も読もうと思います。素敵な作品をありがとうございます。 (9月26日 22時) (
レス) @page49 id: 585b81384e (このIDを非表示/違反報告)
ちるぬな(プロフ) - 初めてこの作品を読ませていただきました。言葉遣いからストーリー構成まで、ほんとうに好きです。素敵なお話ありがとうございます。これからまた何十回と読ませて頂きます^_^ (9月20日 21時) (レス) @page49 id: 7c0a70e250 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» 私こそすみません…！作品の方また楽しんでいただければ幸いです！ (2021年8月31日 11時) (レス) id: 9dd39ae13b (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - せのさん» そうだったんですね！失礼いたしました...！ (2021年8月30日 21時) (レス) id: ef764b671d (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» こちらこそ読んでくれてありがとうございます〜〜！！Twitterはしてないので教えられず……！ (2021年8月30日 16時) (レス) id: 01bd2f8507 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：せの
| 作成日時：2021年8月2日 0時
