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心臓が唸り声を上げたと同時に目を覚まし、跳ねるように起き上がるとベッドのスプリングがぎしりと音を立てた。
今見ていた夢はなんだったか。
そうだ、Aと最後に会ったあの日の夢だ。
薄くなっていく夢の欠片を拾い集めながら、必死に頭の中へ記憶を留めようと目を閉じる。
夢はいつもすぐに忘れてしまう。
何をしていたのか、どこにいたのか、そして誰といたのかも。
覚えていなければと夢の事だけ考えていても、ベッドから降りた瞬間、失うように消えてしまう。それが夢だ。
だけど今日見た夢はそうじゃない。現実の反芻だ。
あの日、Aと話したことが自分の記憶と全てリンクしていた。
ただ現実と言うのも夢のようなもので、時間を掛ければ掛けるほど少しずつ失われてしまう。
何度だって繰り返したこの夢さえ、今では背景が段々と朧げになってきた気もする。
例えばあの日、自分の着ていた服は何色だっただろうか。
例えばあの日、開けた窓のある廊下は本当にあの場所だっただろうか。
例えばあの日、視界から隠れていたのはジェノとジェミンの二人だったのだろうか。
頭を振って眼鏡を掛け、ベッドから降りた。
顔を洗って前を向けば、鏡で見る自分はあの日の自分とは随分変わって、子供らしさもとうの昔に消え失せている。
それなのに夢の中で笑うAはいつまで経っても時が止まったままだ。
果たして自分は忘れずにいられるだろうか。
隣に立ったAの肩の位置や、自分に笑いかける表情を。
そして夢みたいな現実の、あの日の事を。
両手で顔を叩いてからパソコンデスクに座り、メールリンクを開く。
新規作成を選び、管理番号と名前が入っただけの簡素なメールアドレスを指定して、まっさらな本文を見つめた。
途中で数えるのを辞めたくらいAにメールを送っているけど、返って来たことは一度だってない。
Aが会社との契約を切ったと発表された瞬間、連絡の手段は一切なくなってしまった。
何かないかと頭を叩き、やっと思い出せたのは練習生になった日に貰った、いつまでも使う予定の無いメールアドレスだ。
会社の人間ですら存在を忘れたこのアドレスを、Aが覚えている確率なんてほぼゼロに等しいんだって、そんなことはわかってる。
それでもオレは、今日もAに手紙を送る。
デスクがいつもより少し眩しく感じ、目を細めて窓を見ると、今年初めての雪が舞い落ちてくるのが見えた。
(夢・完)
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さっちゃん(プロフ) - 作品読ませていただきました。途中胸が苦しくなるほど、とても良い作品でハッピーエンドで終わり良かったです。またトキメキと良い意味での胸の苦しさを求めて何度も読もうと思います。素敵な作品をありがとうございます。 (9月26日 22時) (
レス) @page49 id: 585b81384e (このIDを非表示/違反報告)
ちるぬな(プロフ) - 初めてこの作品を読ませていただきました。言葉遣いからストーリー構成まで、ほんとうに好きです。素敵なお話ありがとうございます。これからまた何十回と読ませて頂きます^_^ (9月20日 21時) (レス) @page49 id: 7c0a70e250 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» 私こそすみません…！作品の方また楽しんでいただければ幸いです！ (2021年8月31日 11時) (レス) id: 9dd39ae13b (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - せのさん» そうだったんですね！失礼いたしました...！ (2021年8月30日 21時) (レス) id: ef764b671d (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» こちらこそ読んでくれてありがとうございます〜〜！！Twitterはしてないので教えられず……！ (2021年8月30日 16時) (レス) id: 01bd2f8507 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：せの
| 作成日時：2021年8月2日 0時
