３ ページ47
.
まあ何にせよAヌナが帰って来てくれて、マクヒョンと揃いの指輪(二人だけかは微妙)を着けているという事はそういう事なんだ。
もうこの人は逃げたり、隠れたりはしないだろう。
良い事だ。喜ばしい事だけど、とりあえずヌナの肩にべったりと寄り添って腕を組み、マクヒョンにべーっと舌を出しておく。
ピクピクと揺れるマクヒョンの目元を見てようやく、僕の頬も緩み始める。
「いやでも、本当に寂しかったんだよ。僕の部屋には写真立てがいくつかあるけど、マクヒョンよりもAヌナの写ってる割合の方が高くて」
「本当に？」
「本当だよ、オレが写ってるのは一つしか無かった。しかも伏せてあったし……」
「マクヒョンが来るからわざわざ伏せたんだっけ」
「おい」
「ヌナは寂しくなかった？僕との写真はちゃんと大事に眺めてた？」
「……私、実は」
「ん？」
「この国から出て行くとき、持ち物は全部捨てちゃったの。だから私、何も持ってなくて」
「えっ、それってどういう事！？」
「そういえばA、オレとヘチャニが誕生日にあげたネックレス、昔はいつも着けてたのに今は着けてないな」
「会社の人に頼んで、売れそうなものは全部寄付に……」
「ああ……」
「Aヌナ……」
「持ってても、未練がずっと残ると思って」
ヌナは苦笑いをしながら「ごめんね」と謝って来るけど、確かにこの人なら今までの流れ的にやりかねないな……と思ってしまった。
でもそっか、そうか。
Aヌナには何も無かったのか、と思えば途端に胸が切なくなってしまう。
だから余計に薬指のリングがキラキラと輝いているようにも見えた。
そうこうしてる間に肉が運ばれてきて、全部をマクヒョンに押し付けるよう渋い顔のおじさん店員にお願いすると、その通りヒョンの前に皿がどんどん置かれていく。
おじさんが出て行くまで離していた身体を、またAヌナにぴたりとくっつけると、ヒョンがやっぱり嫌そうな顔で見てくるのが嬉しくてしょうがない。
そんなマクヒョンが溜息交じりに口を開く。
「まあでも、オレ達の思い出が無くなったわけじゃないし、今から新しく作っていけばいいのか」
そう言って肉を焼くマクヒョンはやっぱり真面目で、正しい事を言う。
そんなところが憎いのだと「ヒョンより僕の方が良い男だと思うんだけどなぁ」と呟けば、隣からはずっと聞きたかった笑い声が聞こえたのだった。
(おまけ・恋よ、ゆるやかに歩め・完)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1261人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さっちゃん(プロフ) - 作品読ませていただきました。途中胸が苦しくなるほど、とても良い作品でハッピーエンドで終わり良かったです。またトキメキと良い意味での胸の苦しさを求めて何度も読もうと思います。素敵な作品をありがとうございます。 (9月26日 22時) (
レス) @page49 id: 585b81384e (このIDを非表示/違反報告)
ちるぬな(プロフ) - 初めてこの作品を読ませていただきました。言葉遣いからストーリー構成まで、ほんとうに好きです。素敵なお話ありがとうございます。これからまた何十回と読ませて頂きます^_^ (9月20日 21時) (レス) @page49 id: 7c0a70e250 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» 私こそすみません…！作品の方また楽しんでいただければ幸いです！ (2021年8月31日 11時) (レス) id: 9dd39ae13b (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - せのさん» そうだったんですね！失礼いたしました...！ (2021年8月30日 21時) (レス) id: ef764b671d (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» こちらこそ読んでくれてありがとうございます〜〜！！Twitterはしてないので教えられず……！ (2021年8月30日 16時) (レス) id: 01bd2f8507 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：せの
| 作成日時：2021年8月2日 0時
