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「奢る?何か奢ってくれるの?」
小首を傾げた伊礼君に今度は私が首を傾げた。
「え?ここに連れてきたのって何か奢らす為でしょ?昼休みヤツの返礼として」
そこまで言うと彼もようやく思い当たった様だが、途端にくすくすと笑い始めた。
何故笑う?私何かおかしなこと言った?
リアクションに着いて行けず、私がポカンとしていると、ようやく笑いが治まった伊礼君が「あー、久々にこんな笑った」とちょいと小馬鹿にしつつも答えてくれた。
「今日一日、僕に付き合ってくれたんだからそれで充分だよ。なにもあれしきの事で金銭を強請るほど、僕がめつくないし」
……あぁ、私の思い違いだったのか。
思わず肩の荷が降りて、椅子の背もたれに寄りかかった。
「あっ、そーなの?良かったぁ。お財布の心配せずに済む」
「それとは別に何か奢ってくれたりする?」
「無理無理無理。バイトしてなんとかやりくりしてんだから勘弁して」
「Aさん、バイトしてるんだ」
なんだよ、その意外だとでも言いたげな顔は。
心外だな。こちとら自分のスマホ代は自分で払ってんだよ。
「してるよ。でも厄介な常連客いて、超疲れるけど」
「へぇ、そう。ま、がんばれ〜」
「そのいかにもご愁傷様ですみたいな顔やめて。普通に腹立つ」
この後もくだらない雑談を続けながら夕食を終え、私達はフォーラムを後にした。
駅のホームに着き、ちょうど来た電車に乗り込む。
もしかしなくても伊礼君、電車の時間チェックしてたな。電車待たないで乗れたの初めてだ。
「じゃあ僕ここだから。また明日」
「あっ、うん。また明日」
気付けば彼の最寄り駅で、電車から降りる伊礼君を見送った。
その場にポツンと残った私は座席の隅に座り、鞄を抱き締める。
そして、脱力して仕切り板に寄りかかった。
(今思い返しても…そうだな。普通金せびる事では無いわな。助けて貰った身だからこう言うのもなんだけど…)
改めて考えて、安心して息を吐いた。
最近バイト忙しかったから思考バグってたのかもしれない。イヤ、バグってたわ。絶対そう。
(……今、安心して喜んじゃった)
———ヤバい、絆されてる。
鞄を抱き締める腕に力が入り、胃が重く感じて俯いた。噛んだ唇がヒリヒリ痛む。
それが意味の無い行為だと分かっていても、私には辞められる程の余裕が無い。
今日もまた、伊礼君を恨んだ。
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楽空(プロフ) - 空木さん» 返信遅くなりましたが、ありがとうございます。頑張ります! (2022年9月17日 2時) (レス) id: ac5eac6eff (このIDを非表示/違反報告)
空木 - ウインボはあんまり無いかな...と思って検索したらまさかの康人くん(推し)で吃驚しましたありがとうございます...‼更新頑張って下さい!! (2022年8月4日 18時) (レス) @page16 id: 7a7324414c (このIDを非表示/違反報告)
楽空(プロフ) - 柚莉愛さん» ありがとうございます。モチベめちゃ上がりました。がんばります。 (2022年6月16日 21時) (レス) id: 0b829f5534 (このIDを非表示/違反報告)
柚莉愛 - 頑張ってください!応援してます! (2022年6月14日 15時) (レス) id: cefdbc04a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白さん。 | 作成日時:2022年2月6日 23時