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二人だけの夜中の通話。それは一般的には親密な人間関係の上でしか成立しない。言い出しっぺの伊礼は間違いなく彼女との関係の発展を望んでいる。だがAは、釈然としなかった。彼女にとっては仲の良い友人との通話。相手が告白してきた事実はあれど、やはり一人の男として認識するには無理がある。否、したくない。
(じゃあ私、なんで通話なんかしてるんだろう)
“矛盾”。Aにもまたこの言葉が当てはまった。人は恣意的な生き物だ。故にこの関係がいつまで続くかも分からない。
(こんな苦悩するなら、いっそあの時フッとけば良かった)
なんて言葉が音に乗ることは一生ない。口から出るは何食わぬ戯言。たとえその心が何も発さなくなっても、彼女は平然と振る舞うだろう。身内にでさえそうなのだから。
けれど___
『ねえAさん。提案があるんだけど』
「何?」
『僕のこと、そろそろ下の名前で呼んでよ』
この瞬間、確かにドクンと波打った心臓がその可能性を脅かした。
___
「僕のこと、そろそろ下の名前で呼んでよ」
出された声は、僅かに小さかった。いつもの声量とさほど違いはないが伊礼自身は嫌でもその差に気付き、己の弱さを垣間見た。
「僕らは仮とはいえ恋仲なんだから。いつまでも苗字で呼び合うのも変でしょ?」
『……』
返ってきたのは沈黙。たかが呼び方を変えてもらうだけなのに、何故こんなにも不安が募るのか。理屈は通っている。理解もできる。懸念事項は0なのに晴れない自分の心が、理解できない。
伊礼は論理的だ。一時の感情で動かない。提示された物事が納得いかなくても、覆すためのリスクの方が大きければ文句なく受け入れる。ローリスクハイリターン。そんな彼の基盤が、明らかに揺らいでいる。人は理屈で測れない。故にシュミレーションゲームのように決まった結果が返ってくるとも限らないのだ。
(やっぱり面倒だな。こういうのって)
未知の感情に戸惑う自分が恥ずかしい。そう思ってしまうのは伊礼にも思春期ならではのプライドがあるからである。幼い時から兄として、落ち着いた振る舞いをしてきた自尊故なのだ。
「…沈黙は肯定と受け取るよ」
『ゑ、ちょ、タンマタンマッ』
「二者択一なんだからすぐ答えられるでしょ」
『君ってホント強引』
「知ってる。ホラ早く。僕眠くなってきたから」
『なんなんだこの暴君は』
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楽空(プロフ) - 空木さん» 返信遅くなりましたが、ありがとうございます。頑張ります! (2022年9月17日 2時) (レス) id: ac5eac6eff (このIDを非表示/違反報告)
空木 - ウインボはあんまり無いかな...と思って検索したらまさかの康人くん(推し)で吃驚しましたありがとうございます...‼更新頑張って下さい!! (2022年8月4日 18時) (レス) @page16 id: 7a7324414c (このIDを非表示/違反報告)
楽空(プロフ) - 柚莉愛さん» ありがとうございます。モチベめちゃ上がりました。がんばります。 (2022年6月16日 21時) (レス) id: 0b829f5534 (このIDを非表示/違反報告)
柚莉愛 - 頑張ってください!応援してます! (2022年6月14日 15時) (レス) id: cefdbc04a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白さん。 | 作成日時:2022年2月6日 23時