第五譚 幕開けの爆音 ページ6
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いつの間にか広い車内の中でA一人だけなってしまっていた。
取り残された恐怖、大切な時に動けなかった劣等感に胸を衝かれ、座った体勢のまま足を抱えて縮こまる。
今からでも間に合う。
それなのに躯は動かず、石の様に固まったままだ。
どうやらうちは生命よりも自分の感情を優先してしまう程の出来損ないであったらしい。
「ちょっとあんたっ、しっかりしなっ!!」
そんな絶望の中、救世主が現れた。
Aがいる車両に足を踏み入れた、ボブカットの髪型に黄金色の蝶の形をした髪飾りを着けた女性が一人。
彼女はAを見つけるなり、必死の形相で駆け寄りその肩を揺さぶった。
気が動転しつつも顔を上げるA。
そんな彼女を見て女性、与謝野晶子はその綺麗な顔に眉間を寄せ、安堵と呆れが入り交じった息を吐き出した。
「
「...」
何も発さないA。
否、正確には現状に雪崩込んできた大量の情報処理の方に意識を飛ばしていたため与謝野の話を聞いていなかっただけなのだが。
きっと今頃、この人女性なのに何でこんな状況下で動けるんだ、という疑問が脳を支配しているであろう。
一先ず与謝野はAの体に異常が見られないことを確認すると、腕を引いて立たせた。
されるがままに直立したAはやっと意識を眼前に戻し、再び与謝野を凝視した。
与謝野はそんな彼女を知ってか知らずか再度口を開いた。
「ここは危ないから今すぐ中央車両に向かいな
若い命をこんな
「は、はいっ…!」
有無を言せぬ瞳に射抜かれ、ビクッと肩を揺らしたAが慌てて裏返った声で返事をすると与謝野はくすりと笑みを零す。
そして満足顔でAの背を後方車両へ押した。
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作者名:食べかけの春雨さん。 | 作成日時:2019年10月11日 23時