第四譚 幕開けの爆音 ページ5
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すると次の瞬間、前の車両から来た乗客が我先にと目の前を駆けていき、次々と後方車に入っていくのが見られた。
然しAはそれを黙って見つめることしかせず、彼らと同じように逃げるために足を踏み出そうとはしなかった。
怖いからだ。
当たり前だろう。
爆弾という物騒極まりない異常物体とは掛け離れた、正しく平和な日々を過ごしてきた普通の女子高生がいきなり爆弾なんかに遭遇したら誰だって恐がる。
でも、できる限り早く避難しないと。
逃げ場がないのは分かってる。
けど被曝を最小限喰らわずにやり過ごせる可能性があるのは中央車両に留まること。
なのに、頭では分かってるのに。
何故足が動かないっ......!!
Aの躯は今まで感じたことのない恐怖から足は生まれたての子鹿のように震え、奥歯がガチガチ音を立てていた。
焦りから次第に上手く呼吸もできなくなってきている。
正に、絶体絶命の窮地に追いやられていた。
動けよ、脚!!
今動かなきゃ死ぬかもしれないんだぞっ!!
お前はうちを殺す気かっ!!
懸命に働く自若な頭とは裏腹に思い通りに動かず震えるばかりでいる体に嫌気が差した。
同時に理不尽極まりないこの最悪な状況を唐突に突きつけられた、誰にもぶつけられない怒りが宿る。
どうしてうちなんだ。
こんな非現実的な展開は誰も望んじゃいない。
寧ろ早急にお帰り願いたいくらいだ。
「クソッタレめっ!!」
吐き出せない屈辱感が溢れ、腹癒せに握り締めた拳を力いっぱい壁に叩きつけた。
何回か想像した事があった。
丁度こんな状況下に陥った時、臨機応変に対応して人から賞賛を貰う立派な自分という理想像を。
けれど現実という物は残酷でどうしようもなく正直だ。
うちが書いていた小説の登場人物でもこんな惨めな人なんていなかった。
けれど幾ら足掻こうと自分に訴えかけても、現状が変わることは無く、項垂れることしかできなかった。
「これ.....うち死んだな...」
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作者名:食べかけの春雨さん。 | 作成日時:2019年10月11日 23時