第二譚 帰宅電車にて微睡む ページ3
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かなり夜も更けている気がして腕時計を見遣ると午後七時半を指し示していた。
道理で眠気が先程から凄まじいわけだ。
加えて余程の疲れから普通より歩行ペースが遅い、家に帰る道のりで力尽きてしまいそうだ。
「疲れてんなぁ...うち」
おまけに視界もその凄まじい眠気から朧気で、気を抜いたら転んでしまいそうだ。
もし階段で足を滑らせることがあったらたまったもんじゃない。
明日に響かせないためにも家に帰ったら直ぐに寝ることを心に決めた。
「でも録画した
早くも前言撤回してまいそうだ。
数分後、駅のスピーカーから駅員のアナウンスが鳴り、電車が到着した。
すると車両に誰も人が乗っていないことに気が付く。
どちらかと言うと人付き合いが苦手なAにとっては少し喜ばしいことだった。
「こりゃ運がいいね」
端の席に座り、イヤホンを耳にしお気に入りの曲を聴く。
そして其の儘虚空を見つめることが実は静かな一時の安らぎでもあるのだ。
彼女曰く、そうしていると稀に名案が生まれることがあるのだそうだ。
名案というのはAが趣味で書いている小説のネタのことで、基本誰かに見せることはなく、只管一人でキャラクターを作成しては思いついた物語の舞台で遊ばせる、そんな簡素なものだ。
たまに超大作を思いつくらしいが文字に起こせる気がしないのでその時は大抵妄想でとどまっている様で。
「っ、ふぁぁぁぁ...」
けれど今日は彼女の中で睡眠欲が何よりも勝った。
こんな遅い時間まで頑張った自分に御褒美をあげなくては。
それに少しだけなら大丈夫だろう、目的の駅までまだまだある。
欲に従い、Aは瞼を閉じた。
「あー寝心地最高かもぉ...」
電車の振動から小刻みに躯を揺らされ、それが揺籃のように心地良く、優しくAを夢に誘う。
なんだかいい夢が見れそうだな。
Aは思考に蓋をしてイヤホンを取ると、身を優しい微睡みに委ねた。
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作者名:食べかけの春雨さん。 | 作成日時:2019年10月11日 23時