ep315 ページ18
「ああ、だが取り戻せばそれが最後になる」
忘れもの…そう問われて土方はその通りだと思った。
忘れたこと、失くしたことを知って初めてそれがどれほどかけがえのないものなのかを痛感する。
だが大抵、その時になってあちこち探したってそれは見つからないことが多いし、ならばと似たもので代替しようと思っても虚しいだけだということも知っている。
「ここを開ければ、もう二度とここには帰ってこれねェ」
近藤達と、隊士達と江戸を護る。それは己の信じる“侍”のため。それを突き通して守り抜くため。
ただそれだけだったはずなのに……
伸ばしていた土方の腕が力無く落ちる。
それを一瞥した銀時が、ゆっくりと空を見上げながら口を開いた。
「俺も同じだ。……昔似たようなことがあった。
護りたいもんが二つあった。どちらも失いたくなかった。だがそのうち一つを捨てねぇと二つとも失う目に遭った」
「どっちを選んだ……?」
「どっちも護ろうとした。だがそいつはどっちも捨てるのと同じだった」
ガラにもなく自嘲じみた表情で答えた銀時。
「今でも夢に見るよ……もっとマシな方法があったんじやねェかって……」
土方はその時、きっと同じ目に遭っただろうあの参謀のことがよぎった。
真選組のことを見ているようで、その奥に透ける別のものを見ているようだったあの眼差し。
自分の作戦が功を奏しても満足そうな表情一つ見せず、「参謀ですから」の一言で済ませていたあの掴みどころのない表情。
思わず押し黙って銀時を見たまま立ち尽くしていれば、「だが——」と言って銀時がこちらを向いて言った。
「お前は迷う必要なんてねェじゃねェか。今ならまだ間に合う」
そのまま屯所の門に手を伸ばす。
それに流されるように押し開けた門の先には——
雨に打たれながらも一糸乱れぬ隊列で敬礼する隊士達がいた。
その姿に言葉も出ない。目を見開いてただその情景を見つめていれば
「まだどっちも護れんだろ、お前なら、お前達なら」
思わず熱いものが込み上げてきたその時——
「副長、忘れもんです。さっさと着替えて、さっさと指示を!」
沖田によって乱雑に投げつけられた隊服。背中にはもはや馴染みの罵詈雑言。
それすらも愛おしく、隊服を拾い上げて羽織れば、さっきまでの寒さなど嘘のように消え去った。
「指示するまでもねェ。俺の制服に落書きしたやつ切腹!!」
屯所にはいつぶりか、懐かしい笑い声が響いた。
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ギラッフェ(プロフ) - ろこもこさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて感謝しかありません。前作も必ず完結させるつもりですので長い目で見ていてくださると嬉しいです。これからもよろしくお願いします! (2022年1月18日 23時) (レス) id: 3534028906 (このIDを非表示/違反報告)
ろこもこ(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます!前作の最終兵器に宜しく からずっとファンです…!ギラッフェさんの小説は人物や世界観が作り込まれ、何より愛が感じられて大好きです!!これからも応援しています! (2022年1月18日 15時) (レス) id: c1accee4d9 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - むーさん» そう言っていただけて嬉しいです!ゆるゆる更新してますがどうぞこれからも宜しくおねがいします (2022年1月11日 19時) (レス) id: 3534028906 (このIDを非表示/違反報告)
むー - いつもギラッフェさんの語彙力が凄すぎて本当に尊敬します…これからも頑張ってください! (2022年1月10日 21時) (レス) id: c41de03eef (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - ゆりりんさん» コメントありがとうございます!そんなふうに想ってもらっていて感謝しかありません。これからもよろしくお願いします! (2021年11月3日 10時) (レス) id: 26330a8285 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2021年4月22日 16時