ep279 ページ32
―貴女side―
止むどころかどんどん酷くなる雨風の音を聞きながら、静かに膝を抱える私。
この状況で傘もなしに歩けるほど無謀なわけでも屈強なわけでもなく、仕方ないと思いつつも思い返されるのは松下村塾のことだけだった。
あそこが大切なのは本心だ。
あんな風に手習いを習って、みんなと食事して、縁側でつまらない喧嘩を眺めて。
今までそういう温かいものに触れてこなかったせいか、あそこでの出来事ひとつひとつがとても輝いていた。
一度甘い味を覚えてしまうと、それを知る前より苦いものはより苦く、辛いものはより辛く感じてしまう。
でも、松下村塾の彼等に出会ったことを後悔はしない。
むしろ許されるのなら――
「帰りたい……」
ぽつりと呟いたその言葉は誰に聞かれることもなく、雨音に消されて地面に落ちる――
はずだった――――。
「なら帰って来いよ」
そんな台詞と共に晋助が現れるまでは……。
びしょ濡れの全身でゼェゼェと息を継ぎ、髪から雨粒を滴らせる晋助に驚きを隠せない。
「……なんでここに……」
「探しに来たからに決まってんだろ。帰るぞ」
そう短く答えると、当然のように私の腕を引っ張り上げる晋助。だが私はそれを振り払った。
「無理。出来ない」
「なんでだよ！！」
彼はそう声を荒げながら振り返る。
「先生のことか！？あんな舐めとけば治るような怪我であの人は怒んねぇよ！」
「違う、そういうことじゃない！」
元はといえばこの眼のせいだ。晋助はそれを知らないからそんなことが言える。
「じゃあ何なんだよ！？言えよ！！」
……言えって何を？眼のこと？
ふざけんな。
「言って何になるの！？どうしようもない問題に土足で踏み込んでくるな！！何も知らないくせに、何も分からないくせに！！」
だが、晋助はそう叫んだ私の胸倉を掴み、私以上に声を荒げて言った。
「あぁそうだよ！！微塵も分かんねぇよ！！だから言えっつってんだろ！！頼る前から勝手に他人を見切りつけてんじゃねぇよッ！！！」
図星を突かれて一瞬たじろいだ私に晋助は続ける。
「何でもかんでも1人で抱え込んで。その挙句まるでこの世の不幸全部背負ってるみたいな顔しやがって！！
自分で気付いてないなら言ってやるよ！！お前、そもそもその問題とやらを解決する気が無いんだろ！？」
その言葉は、まるで平手打ちでもされたかのような衝撃だった。
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ギラッフェ(プロフ) - ゆうゆさん» コメントありがとうございます！楽しみにして下さってて本当に嬉しいです。これからもよろしくお願いします！ (2021年3月1日 1時) (
レス) id: c665168944 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - ひなたさん» コメントありがとうございます！テストに間に合ってよかったです。これからもよろしくお願いします！ (2021年3月1日 1時) (レス) id: c665168944 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうゆ - 更新凄く楽しみに待ってました！応援してます、これからも頑張ってください！！ (2021年2月26日 1時) (レス) id: 90e018deaa (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - めちゃめちゃ楽しみにしてました！これからの展開が楽しみですこれで明日のテスト頑張れます！ (2021年2月26日 1時) (レス) id: a90e951796 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - じゅうぞうさん» コメントありがとうございます！なかなか更新できずすみませんでした。応援ありがとうございます！ (2021年2月26日 1時) (レス) id: c665168944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ギラッフェ
| 作成日時：2020年8月29日 0時
