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結局、あの後わたしは昌磨の家に泊まった
2、3日泊まった後、父が私を引取りに来た
…正直、あの家には帰りたくない
そんな私の思いを知ってか知らずか、帰り道、父は私に尋ねた
父「…Aは、今、幸せだと思うか」
その一言を呟いた後、父の口は固く閉じられていて
なんとなく、その言葉の重みがわかった
「私は…」
幸せだよ、と、言いかけた
でも、その一言は喉の奥に張り付いたように出てこなくて
父が、私の言葉の続きを待っているのがわかった
数秒…数分経ったかもしれない
私は、ようやくゆっくりと口を開いた
「今は幸せではないと思う…けど、重要なのは、今が幸せかどうかじゃない、と思うから…。」
そう、私は言った
父の表情は相変わらず固くて
眉間に皺がよっている
父「…そうか。まあ、父さんはAを応援しているから。」
それだけを放って、父は黙った
家が見えてくる
正直帰りたくないけど、
家の方向へ歩みを進めた
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《次の日》
リンクを滑る感覚が、全身に響き渡る
…今日は、あんまり調子がよくないな
ジャンプも決まらないし、スピンも上手くいかない
こういうとき、昌磨とかコーチの声を聞くと落ち着くんだろうけど
聞こえてくるのは、相も変わらず母の怒号ばかりだ
あと2分程で休憩に入る
それまでには、何としてでもトリプルアクセルを決めたかった
「…っ」
結果は、失敗
回転は足りたけれど、着地でバランスを崩してしまった
派手にリンクに倒れ込む
何だか起き上がる気力が湧かなかったけれど、どうしてもトリプルアクセルを決めたくて、リンクに両手をついて立った
"今年中にはトリプルアクセルが跳べるようになる"
これは、私の中の密かな目標
…今年は、成すことなく終わってしまいそうだ
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作者名:そうめんになりたい。 | 作成日時:2022年2月25日 22時