日常・午前 ページ5
朝食の片付けが終わった頃。
小「ぬしさま、今日も宜しくお願い致しまする」
小狐丸がそう言って差し出したのは、朱塗りに緑石が美しい櫛。
そして縁側に腰掛けると、ニコニコと満面の笑みでこちらを見る。
毎朝の日課。小狐丸の毛並みを整える時間だ。
Aは小狐丸の後ろに膝立ちして、その少しぼさついた毛に櫛を入れた。すうっと途中まで櫛は通るが真ん中辺りで止まってしまう。
絡まった毛を手で丁寧にほぐす。
すうっ、ぴたっ、ほぐしほぐし。その繰り返し。
…そう言えば昔絡まった毛を無理矢理櫛でとかしたら毛がぷっつり切れて、小狐丸もキレた事あったな。
あの時は危なかった。噛まれるところだった。
まぁ、痛かったよな。申し訳ない。
そんな反省を経てきちんと手でほぐすようになったのだが、如何せん時間が掛かる。おまけに疲れる。
当の本人は楽しそうに鼻唄なぞ歌っているが、こっちは必死。
…そんなに毛をとかれるのが楽しいのか?
「終わったぞ」
そう言って、手櫛で毛をすいてやる。
細毛で癖毛。手入れは面倒だが、ふんわりとした触り心地はそのまま抱き枕にして眠りたくなる。ちょっと獣臭いような気がするのが玉に傷…。
小「ぬしさまありがとうございました。そうだ!今日はこの小狐がぬしさまの毛並みを整えて差し上げましょう!」
「は?え、いい、いい。遠慮する」
小「しかしボサボサの毛並みではぬしさまの美しさが隠れてしまいます」
「美しくないからいい。それに櫛を共有すると虱がうつるっていうだろ。いや、お前に限ってそんなしら…」
小「ここにもうひとつ」
と言って取り出したのはべっ甲に狐のシルエット付きの櫛。
「えぇ…」
小「万屋で買いました。ぬしさまに似合うと思いまして。ささ。小狐の我が儘に付き合うと思って」
わざわざ私の為に買ったと聞けば、その思いを無下にする事は出来ない。
観念して、
「分かっ…た!?」
フワッと浮遊感が一瞬体を襲い、すとんと重力が戻って来た。
いつの間にか小狐丸の足の間にいる。ガッチリ膝でホールドされていて、絶対逃がさないという意思を感じる。
ドキドキと何故か心臓が高鳴っている。そういえば、誰かに髪をとかれた事なんてこれまで無かった。緊張しているのか?
日常が非日常になるまで、5秒前。
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いづみ(プロフ) - 餅田さん» コメントありがとうございます。がんばります! (2020年8月19日 14時) (レス) id: 28595e5e52 (このIDを非表示/違反報告)
餅田 - 続きカモン! (2020年8月1日 23時) (レス) id: b17d16c344 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いづみ | 作成日時:2019年2月28日 23時