AIコトバ ゼロワン 亡 ページ26
その日も暑かった。
天気予報によると、この真夏日は来週まで続くらしい。ヒューマギアである亡は寒暖を感じないし汗もかかないが、それでも連日の気温の上昇で、体内機器が狂ってしまいそうだった。
気温は夏そのものだというのに、日の落ちるスピードは秋の終わりを告げていた。6時も回れば既に辺りは薄暗く、街灯の少ない河川敷となれば、更に視界は悪かった。
暗がりに目を凝らせば、いつもの場所に彼女は座っていた。
Aの名前を背後から呼ぶ。小さな体がこちらを向き、彼女が少し微笑んだのが感じ取れた。
隣に座ると彼女の表情が見える。いつもの定位置だ。亡は鞄から一つ、袋を取り出した。
亡「これ、差し上げます」
「ん……あら、あんぱんね、白あんの」
亡「はい。見つけたので」
「わざわざ探してくれたと思ったのだけど?」
悪戯っぽくAは笑った。だが、嬉しそうなのが隠し切れていない。彼女はそれを鞄にしっかり仕舞った。
亡「今食べないのですか?
「今はお腹が空いていないから」
亡「最近、余りここで食べないですね」
「……ここで食べる方が不健康でしょ?」
それもそうだと亡は納得したが、それにしては歯切れの悪い反応だった。
亡「食欲がないのですか?」
その時、河川敷に面した道路をバイクが通りかかった。エンジンを無駄にわななかせ、騒音を撒き散らしている。暑くなるとこういう走り屋が増えるのは何故なのだろう。熱が彼らの頭を浮かせるのだろうか。
亡がそちらへ視線を動かすと、ヘッドライトは上向きで、一瞬視界を奪われた。目の前が真っ白になる。通り過ぎていくバイクの駆動音を聞きながら、目をAの方へ戻す。ライトが彼女の顔を照らしていた。辺りがすっかり暗くなっていることに、亡は漸く気が付いた。目が暗闇に慣れてしまっていたから、彼女の顔が良く見えていないことにも気付いていなかった。
亡「その、顔、どうして……」
亡は言葉を失った。Aの右頬が赤く腫れていた。虫刺されというレベルではない。誰かに叩かれたものだ。
完全に辺りが暗闇に戻る。Aは驚きの表情と同時に、その髪の毛で頬をさっと隠した。亡が手首を掴むと、彼女は嫌がって手を振り払おうと身を捩った。亡が手に持つ手首には、青痣が浮かんでいた。
亡「これ、どうしたんですか」
「転んだだけよ」
亡「嘘は止めて下さい。誰にやられた?」
彼女は何も言わない。俯き目を亡から背けている。
亡「父親ですか」
亡の言葉に、Aは弾かれたように顔を上げた。その反応だけで十分だった。
22人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鶴葉 - いづみ様の好みにあった設定だったようで嬉しいです! ありがとうございます。 楽しみにお待ちしております! (3月23日 23時) (レス) id: 547353d65f (このIDを非表示/違反報告)
いづみ(プロフ) - 鶴葉さん» 返信ありがとうございます! 好きな感じの設定なのでちょっとニヤニヤしてしまいました。今書いている話が終わったらすぐ書き始めますね! 少々お待ちください。 (3月21日 0時) (レス) id: dd0d1755d5 (このIDを非表示/違反報告)
鶴葉 - それ以降、スタークは主に付きまとわれるようになる。面倒だと思いながらも主の事を始末しようとしない自分自身に苛立つスターク。(感情が無いためこの気持ちがどういうものか分からない。)」 というのはどうでしょうか…? 主は明るくてお転婆な感じだと嬉しいです…! (3月21日 0時) (レス) id: 547353d65f (このIDを非表示/違反報告)
鶴葉 - ご返信、リクエストの受付ありがとうございます! お返事が遅くなり申し訳ございません…! 設定は「自分にとって不要になったスマッシュを倒しただけのスターク。そのスマッシュに襲われていた主は助けてくれたと勘違いして好きになってしまう。→続きます。 (3月21日 0時) (レス) id: 547353d65f (このIDを非表示/違反報告)
いづみ(プロフ) - 鶴葉さん» リクエストありがとうございます!感想もとても嬉しいです!何か設定などにご希望はございますか? (3月17日 23時) (レス) @page22 id: dd0d1755d5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:いづみ | 作成日時:2023年7月17日 22時