【特撮】はるかかなたの【短編集】

後藤を待ちながら オーズ ページ12

多国籍料理店クスクシエ店内。ドアを開いてすぐの2人席にAは座っていた。テーブルの上には注文したばかりのドリンクと、先程までケーキが乗っていた皿が置かれている。
後藤。彼女はその名前の人物を待っていた。
彼女はここのところ毎日、同じ席に座って本を読んでいる。店員にも顔を覚えられていて、所謂常連さんである。しかし、常連になったのはつい最近のことであった。前までは、月に一度に利用する程度だった。店主の女性の名前は分かるが、入れ替わり立ち替わりするアルバイト店員は覚えられない、というレベル。しかし、名前が分からないとはいえ、月1で通っていると大体のアルバイトの顔ぶれは覚えられる。前来たときは頼りなかったのに今は元気に声が出ているな。見たことのないあの人は多分新人さんだな。先日良くしてくれた人が今日はいないな。いつの間にか、ここで働くアルバイトを見守ることが密かな楽しみとなっていた。
しかしそんな習慣も、とある事情で途絶えることになった。留学が決まったのだ。
3ヶ月間の長い留学だった。帰国日、疲れ果てて帰って来た彼女を迎えたのは、何も入ってない冷蔵庫だった。深く溜め息を吐き、何とか気力を持ち堪え、彼女は外食することにした。場所はクスクシエ。ドアを開くと、新しいアルバイトがいた。若い女性と男性が1人ずつ。店主好みの明るくパワフルな2人だった。
カウンター席で食事をしていると、店主とアルバイトの会話が耳に入ってきた。


「ゴトウさん、今日ここに来るそうです」


会話の内容から察するに、どうやらここで働いていた人物の名前らしい。しかし何らかの理由で、今はアルバイトを休んでいるようだった。だが、仕事は休んでいるのに、ここに来るとはどういうことなのだろう。つい側耳を立ててしまった。
エイジと呼ばれる男性はゴトウの友人で、2人は定期的に会っているらしい。そしてゴトウはまた別の仕事をしていて、そちらの方が忙しいようだった。
見てみたい。そう思った。この街に住み始めてからこれまで、クスクシエで働くアルバイトは全て見てきた。だからこそ気になってしまったのだ。
それから彼女は毎日クスクシエに通っている。一番ドアが良く見える席で、平日は学校とアルバイトが終わったらすぐに来て、ディナーからラスト迄。休日はほぼ丸一日、ゴトウを待っている。
顔は知らない、男性なのか女性なのかも分からない。知っているのは名前のみ。会って何がしたい訳でもない。積極的に探すこともしない。その気になれば、エイジという店員に尋ねれば良いのに、それもしない。ただ、待つのみ。
後藤を待ちながら、今日も彼女は待ち人の来ないドアを眺めている。

口寂しい季節 エグゼイド パラド→←プリーズ・プリーズ・ミー ガッチャード 錆丸

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す