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狸寝入り ギーツ 景和 ページ27

Aは教室に足を踏み入れると、中を見渡した。人の気配はなく、がらんとしている。
彼女はここで桜井景和と待ち合わせをしていた。お互い卒論だの就職だのでバタついていたが、偶々時間が取れそうだったので食事にでも行こうか、という話になっていた。その待ち合わせだ。
彼女は空いている椅子に座ると、机の上に突っ伏して伸びをした。この教室は二人で良く駄弁っていた思い出の教室。キャンパスの隅ということもあり、人は殆ど来ない。
因みに彼とは何らロマンチックな関係ではない。知り合いに良く揶揄われるが、一緒にいて楽なだけだ。先日キスをして、そういう雰囲気になりかけたが、まだ友人……のはずである。
頭を振り、記憶を追い出そうと努める。押し倒されたが、結局何もなかったのだ。学校……そう、丁度この教室だったから、流石にここでは、と思い押し留めた。
彼とは何もないのだ。気まずいとかそんなことがあれば、食事などできるはずもない。

目を閉じて自分に言い聞かせていると、いつの間にか眠っていたようだ。「寝てる?」という声に意識が覚醒した。側に彼の気配を感じる。目を開けたいが、視線を感じて中々タイミングが掴めない。ガタンと音がして、彼が隣の椅子に座ったのだと分かった。このまま目覚めるまで待つ気だと察した。嘘だと言ってくれ。
Aの心の悲鳴とは裏腹に、彼は穏やかな表情で彼女を見つめていた。


景「この前は、ごめん。あんなことするつもりじゃなかったんだけど」


彼は小声で謝罪のリハーサルを始めた。Aは側耳を立てた。


景「その場の雰囲気と勢いで、しかも学校でって、本当に最低だと思う。ああいうのは然るべきときに……あれ、何言ってるのか分からなくなってきた」


彼の本意が気になったので、Aはもう少し寝た振りを続けることにした。


景「君を怖がらせたんじゃないかと思って不安だった。正直、今日も来ないんじゃないかと思ってた。……喧嘩別れみたいになるのは嫌だ。とにかく謝らせて欲しい。ごめんなさい」


Aは緩みそうになる口元を必死に抑えた。彼女も景和との関係が崩れるのは絶対に嫌だった。だから、彼の本気が見えて嬉しかった。
目を開けて、彼を驚かせてやろうと思った。「全部聞いていたよ」と言って、恥ずかしそうなさまを観察しようと思った。
グ、とAが瞼に力を入れたその時、彼が彼女の突っ伏している机に寄った。顔の距離が近付くのを察し、再び目を固く瞑る。
その時、瞼が重くなった。何かが乗るような、それでいて柔らかい感触だ。
彼は彼女の瞼から唇を離すと、耳元でそっと囁いた。


景「ところでいつまで狸寝入りしてるつもり?」

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いづみ(プロフ) - 刻卯さん» 承知しました! (2023年2月28日 15時) (レス) id: c26acdadd4 (このIDを非表示/違反報告)
刻卯(プロフ) - いづみさん» 敵同士なのに好きになっちゃった的な設定でお願いしたいのですが難しいかったら甘めのお話をお願いします。 (2023年2月28日 7時) (レス) id: e20218d379 (このIDを非表示/違反報告)
いづみ(プロフ) - 刻卯さん» コメントありがとうございます!リクエスト了解しました!何かご希望の設定や展開はございませんか? (2023年2月27日 21時) (レス) id: 28595e5e52 (このIDを非表示/違反報告)
刻卯(プロフ) - はじめまして!リクエスト失礼します。ギーツでキューンくんを書けたらで構いませんのでお願いします。 (2023年2月27日 16時) (レス) id: e20218d379 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:いづみ | 作成日時:2022年12月2日 22時

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