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「そ、そういうことは……あまり、ぽんぽん言うものじゃないだろう……」
夕焼けのせいとはとても言い切れない顔色をした司が、片手で口元を隠しながら何やらごにょごにょと言っていた。
思いもよらなかった反応に、自分の中のナニカが嫌な音を立てる。待て待てそこは開けてはいけない扉だろうと、必死に抑え込む。
「え、えぇと……もしかして、照れてます?」
「…………照れてない」
「照れてるでしょ」
「照れてない!!」
ああだめかも、もう無理かも、扉開いちゃうかも。
抵抗虚しく、ぱっかーーーんと観音開きで開け放たれたその扉から。
「意外とカワイイとこあんじゃんお前ーーーーー!!!!」
「うおっ」
――母性本能というヤツが大股で歩くように溢れ出てきた。
体を伸ばしてわしゃわしゃと司の頭をかき混ぜた。きちんと手入れされてるのかふわふわのサラサラで、それが余計に油をそそぐ。
「なんだお前、いつも『オレを見ろ』とか言ってるくせに〜〜!」
「ッ! ちょ、おい、やめ」
「なのに褒められたら照れちゃうんだ〜〜? 司ったら初心だねぇ〜!」
「ほんとにやめろ、離せ、っうしろ!!」
「え? 後ろ??」
「随分堂々とイチャついてるねぇ、ここ一応教室だよ?」
「………………ア、カ、カミシロサン……ゴキゲンヨウ」
「ふふ、うん、ご機嫌よう。邪魔しちゃったかな?」
ニヨニヨと笑う神代がいつの間にか背後に立っていて。司が妙に抵抗していた理由がわかった。
慌てて体を元に位置に戻すが、どう考えてももう遅い。見られてしまった。サアアア、と血の気が引く。
混乱した脳みそが導き出した行動は単純明快。右の手をこれでもかというほど握りしめて。
か、か、かくなる上は。
「いやあ意外だねぇ、君達そういう趣味が」
「――お前を殺して俺も死ぬッ!!!」
「おっと」
神代の側頭部目掛けて飛んでいった拳はいとも容易く避けられてしまった。
「お前何してるんだ!?」
「今ので記憶を消し飛ばすつもりだったのに!!」
「残念だけど僕はまだ死ぬわけにはいかないからねぇ」
「か、神代が無理ならッ、俺だけでも……ッ!!」
「だから落ち着け」
自分より慌てた人間がいると逆に冷静になると言うが、恐らく司は今その状態なのだろう。
なんでだよお前も焦れよ!!
「というか前まで気になっていたのだけれど、僕だけまだ苗字呼びだよね」
「今そこ気にするところじゃないよな???」
「悲しいなあ、僕だけ仲間外れかい?」
「だから今じゃ」
「あ、もしもし寧々? 今ちょうど面白いものを見たんだけどね」
「類! 類!! それだけはやめろ!!!」
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