＿＿ ページ46
．
ミクに支えられながら木製の椅子に座ったAは少し落ち着いたようで、止めどなく流れていた涙は引っ込みかけていた。
「偉い、偉いね、Aちゃんはよぉく頑張ったよ。ミクはずーっと見てたから。みんなの役に立ちたくて、一生懸命歌ってたんだもんね」
「…………うん」
普段のAなら「ガキ扱いすんなよ」と遮ってしまいそうな優しい声で、ミクは目の前の想い主を慰めた。
それしか、できることがないから。
「私ね…………ちゃんと、まじめに歌ったんだよ。ふざけてなんかなかった」
「そうだね」
「恩返ししたくって、歌ってて、でも途中までいい感じだったんだよ」
「うん……綺麗な歌だったよ」
そこまで言って、俯いていたAはまた何かに怯えるように勢いよく顔を上げた。いつもの勝気な笑みはどこかへ消え失せ、まるで小さな迷子のようにミクを見た。
「なのにっ！！ 先生が……っ！」
いつの間にかカーテンを通り抜けていたカイトは再度呼吸がおかしくなり始めたAの頭を軽く撫でた。大丈夫だよ、ここは安全だよ、と言い聞かせるように。
「先生が……また、私のこと、ぁ、あの目で見てきてッ！！ それで、私、思って、ああ、また使い捨てされるのかなって、わかってる、あの人たちはそんなことしないって……でも、怖くって！」
「安心して、Aちゃん。誰も君を使い捨てになんかしないから。僕が保証するよ」
「カイト……」
「うん、わかってるよミク。ごめん、お願いしていいかな」
「まっかせて〜！」
震える彼女の背中を励ましながら、カイトは申し訳なさそうにミクを見た。説明らしい説明もなかったが、二人の間では通じたらしく、ミクはその場でくるんと一回転してからカーテンをくぐり走り出した。
「落ち着くまで、僕がそばにいてあげるから。……でも、最後に勇気を出さないといけないのは、全部思い出さないといけないのは、Aちゃん自身だよ」
「おもい、だす……」
ゆっくりと繰り返したAの脳を巡ったのは果たして幻か、それとも記憶か。
⭐︎
「ミク！？ カイト！？ いるなら返事をしてくれ！！」
あの後合流し事情を説明したえむ、類の説得を拒否した寧々と一緒に、急いで《セカイはまだ始まってすらいない》を再生した。いつもなら騒がしいくらいに出迎えてくれるセカイは今はしんと静まり返っていて、明るいBGMが却って虚しく感じる。
「ミク――」
「ここだよ、司くん！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 80人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ありに(プロフ) - 5年ぶりに夢小説を漁ってたらとんでもない神作品に出会ってしまった…応援してます☺️ (2023年3月10日 19時) (
レス) id: 1064f8688a (このIDを非表示/違反報告)
ただのせかおた - 最初の注意事項とか舞台挨拶（？）みたいな感じで書いてるのめっちゃ素敵です！！お体には気をつけてこれからも頑張ってください💍応援してます！！ (2023年1月21日 23時) (レス) id: 5310fc155c (このIDを非表示/違反報告)
kubota6(プロフ) - この作品めちゃ好きです！応援してます！ (2023年1月10日 23時) (レス) @page17 id: a05e9c9f42 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
