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ショーを元の軌道に戻し物語の締めをする頃にはAもなんとか気を取り直したようだった。しかし、横目で見る彼女の顔はろうのように白い。司は座長として舞台挨拶をしている間も気が気ではなかった。
「本日はお越しいただきありがとうございました」
言い終えると同時に湧き上がる歓声、拍手。
その笑顔に水を差したくなくて、舞台上の彼らは精一杯「はちゃめちゃショーユニット」を演じた。
司の隣で手を振っていた類がそっと耳打ちする。
「……司くん」
「ああ。少し早いが、ここらで捌けるぞ。もう持ちそうにない」
「そう、だね。聞いたかいえむくん、そろそろ行こうか」
「Aちゃん、安心して? 大丈夫だよ、落ち着いて……もう手、無理してぎゅうぅってしなくていいんだよ」
司は気づいていた。舞台に立つ時間が長くなればなるほど、Aの呼吸が不規則になっているのを。自分を誤魔化すために握っている掌に深く爪が食い込んでいるのを。
誰にも知り得ない恐怖に一人苛まれながらも、彼女はどうにかして今できる一番の形でショーを終わらせようとしていた。
背中に観客の笑顔を浴びながら、彼らは自然に、だが早足で舞台上を去る。誰も心の中に渦巻く憔悴には気付かなかった。
舞台袖まで来て、誰の目も届かない場所になりようやく、先頭の司はスターの表情を崩した。
「おい、大丈夫かA、一体何が――」
言い終わる前に、最後尾だったAは袖に入って観客からの視線を感じなくなった瞬間膝から崩れ落ちた。前に屈んでいるせいで顔は見えないが、時々変な呼吸音が聞こえてくる。
サァ、と全員の顔から血の気が引いた。司が慌てて駆け寄ろうとしたところを、予想外の人物が通り抜けた。
「A! どうしたの、よく見えなかったけどあんた舞台でも様子おかしかったし――」
「えっ、寧々? 君なんでここに」
「熱が少し下がって、心配で、見にきたの。着ぐるみさんには止められたけど、気が気じゃなくって」
寧々は「今はそんなことどうでもいいでしょ」と早口に説明する。額に冷えピタが付いているままな辺り、よほどのことだったのだろう。
「ああもう……えむくん、すまないけど着ぐるみさんに寧々が抜け出したこと伝えてくれるかい、きっと今頃血眼になって探してるだろうから」
「わ、わかった! 待っててねAちゃん、すぐ戻ってくるから」
類が冷静にえむに指示を飛ばしている間、司は己を抱きしめるように屈んだまま動かないAのそばにしゃがんだ。背中を摩りながら、幼い頃咲希にしてやったように優しく声をかける。
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ありに(プロフ) - 5年ぶりに夢小説を漁ってたらとんでもない神作品に出会ってしまった…応援してます☺️ (2023年3月10日 19時) (レス) id: 1064f8688a (このIDを非表示/違反報告)
ただのせかおた - 最初の注意事項とか舞台挨拶(?)みたいな感じで書いてるのめっちゃ素敵です!!お体には気をつけてこれからも頑張ってください💍応援してます!! (2023年1月21日 23時) (レス) id: 5310fc155c (このIDを非表示/違反報告)
kubota6(プロフ) - この作品めちゃ好きです!応援してます! (2023年1月10日 23時) (レス) @page17 id: a05e9c9f42 (このIDを非表示/違反報告)
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