＿＿ ページ42
.
『それは良いアイディアだわ！ 早速、試してみましょう』
両手を優しく合わせて、歌うような口調で《王女》が言う。
反対側から仰々しくライトの元へ歩み出る天馬とタイミングをずらして俺達もステージ上に戻る。
『姫……に、貴方まで。如何なさいましたか、姫』
険しい顔をしたまま動じない主君の後ろに控えていた
《王女》は若干気後しながらも堂々と答える。
『お兄……国王陛下に、お話をしたく参りました』
『左様ですか。しかし、申し訳ありませんが――』
『良い。ロゼ、お前はもう下がれ』
言いかけた彼を止めたのはよく通る声。威厳やらなんやら、そういう言葉では表しきれないほどの。
煮え切らない表情のまま、
しばらくの沈黙。
『して、お前の用件とやらはなんだ。今の時間はそこの侍女と座学をしているはずでは？』
ダメだ踏ん張れA、次はお前の番だぞ。
接着剤でも使ったのかと錯覚するほど開きたがらない唇を無理矢理こじ開ける。大丈夫、ここは怯えていた方が演技に説得力が生まれるだろう。そう、これは演技であって、俺はびびってなんかいない。
『お……恐れながら、王よ。まず私から説明させて頂いてもよろしいでしょうか』
『許可しよう』
『民は……民の不満は高まっております。今のままではじきに反乱が起きてもおかしくありません』
『……続けろ』
握った掌にじんわりと汗が滲む。幾多もの視線が俺に突き刺さっているのを肌で感じた。しかし、そのどれもが霞んでしまう、絶対零度の見えない圧力を彼は持っている。
最悪の前言撤回だ。
怖い。この男が怖い！
『っですのでっ……もう、おやめください。……無意味に、音楽を規制するのは』
その言葉が口から零れ落ちると同時に、《王様》はダンッ、と近くにあった壁を殴った。年季の入ったステージが少し軋む。
『うるさい……黙れッ！ お前達の為に言っている！！ あれは容易く人を追い詰め、傷付け――もうそのような姿は、見たく、ないのだ……っ！！』
「――……」
顔を歪ませ、絞り出すように言う。
その姿をしばらく、役も何も忘れ、俺はただひたすら眺めていた。
まるで昔の自分を見るように。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 80人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ありに(プロフ) - 5年ぶりに夢小説を漁ってたらとんでもない神作品に出会ってしまった…応援してます☺️ (2023年3月10日 19時) (
レス) id: 1064f8688a (このIDを非表示/違反報告)
ただのせかおた - 最初の注意事項とか舞台挨拶（？）みたいな感じで書いてるのめっちゃ素敵です！！お体には気をつけてこれからも頑張ってください💍応援してます！！ (2023年1月21日 23時) (レス) id: 5310fc155c (このIDを非表示/違反報告)
kubota6(プロフ) - この作品めちゃ好きです！応援してます！ (2023年1月10日 23時) (レス) @page17 id: a05e9c9f42 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
