＿＿第八幕＿＿ ページ38
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自分の手の中の台本にぼーっと目線は落としつつも、俺の頭の中はほとんど空っぽに近い状態だった。
えむの、王女の親友役。かつての宮廷歌手。
あの後、寧々は医務室に運ばれ、あの着ぐるみにより適切な処置を受けた。しばらく様子を見て、回復の見込みがなければ自宅で療養するらしい。
ぱら、とまともに読んでもいない台本をめくる。
印字されたセリフの合間にラインマーカーでびっしりと書かれた線、メモ。それは神代から教わった機械の扱いのコツだったり、四人の練習を見ていた時書き込んだ演技の注意点だったり。
台本を放って立ち上がる。少し目を瞑り、口を開いた。
「……『思い出してください、音楽の素晴らしさを、歌うことの楽しさを――』」
息を吸う。喉から音色を絞り出す。
「…………ったく、ぼろっぼろじゃねぇか」
とても聞いてはいられない歌声だった。寧々とは程遠い。今時の幼稚園生の方がもっと上手く歌えるだろう。
再度目を瞑って、もう一度。今度は頭の中でひたすら念じながら。
俺は機械じゃない、俺は音楽プレイヤーじゃない、俺の喉は使い捨てなんかじゃない。
さぁ、声を出せっ――
「――――ぁ゛っ」
つっかえて出た濁った声。変な風に息を吸い込んだ反動で慌てて咳き込む。口を抑えていた自分の掌をしばらく見つめた後、近くにあった木に拳を叩きつけた。
やっぱり無理だ。
俺は、もう、歌えない。
「A」
「あっ……天馬。んだよ」
声の方を振り向くと、そこには複雑な表情(例えるならば「探し物は見つかったが、なんだか思っていたのと違う」か)をした天馬が立っていた。全身葉っぱまみれである。
ここは、ステージから少し離れた、森のど真ん中だ。
「練習すると言って勝手にどこかへ行ってしまったのはお前だろ。座長として探すのは当然だ」
「そ。悪かったな。……今の、聞いてたのか」
「いや……ん、嘘は良くないな。すまない、割と最初の方からここにいた」
「盗み聞きか。趣味が悪いな、スターさんよ」
ちょいちょい、と手招きすると、全身から申し訳ないオーラを放っている天馬がゆっくり近づいてくる。
そのまま隣まで来た彼の体についた葉っぱを落としてやりながら、なんでもない風を装って言ってみた。
「ひでぇだろ。笑っちまうぜ」
「何がだ？」
「何がって、お前、聞いてたんだろ。俺の歌。歌と言えるかも怪しい」
自嘲気味に嗤ったあと、はい、と最後の葉を取って肩を叩く。それを合図に振り返った彼の顔は疑問に溢れていた。
そして、こう言った。
「そうか？ オレはお前の歌、好きだぞ」
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ありに(プロフ) - 5年ぶりに夢小説を漁ってたらとんでもない神作品に出会ってしまった…応援してます☺️ (2023年3月10日 19時) (
レス) id: 1064f8688a (このIDを非表示/違反報告)
ただのせかおた - 最初の注意事項とか舞台挨拶（？）みたいな感じで書いてるのめっちゃ素敵です！！お体には気をつけてこれからも頑張ってください💍応援してます！！ (2023年1月21日 23時) (レス) id: 5310fc155c (このIDを非表示/違反報告)
kubota6(プロフ) - この作品めちゃ好きです！応援してます！ (2023年1月10日 23時) (レス) @page17 id: a05e9c9f42 (このIDを非表示/違反報告)
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