＿＿ ページ21
．
「なっ、な…………っ！！」
天馬が顔を真っ赤にして震える。陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクとさせた。
さっきとは違うタイプの静けさ。全員の視線が俺に集結する。なんだ、俺の顔に何かついてるのか。
俺の腕を掴んだままの寧々が訝しげな声を出す。
「A今なんて言ったの……？」
「え？ 普通に、ありがとうって」
「違う違うその後」
「……？？ 結婚しようって言ったな」
「聞き間違えじゃなかった」
まるで俺がおかしなことを言ったような空気感。なんだ、コイツらは人に感謝を伝えない非人道集団なのか？？？
「もしかしてAくん、その挨拶は常用してる感じかい？」
「常用って、普通にありがとうは言うだろ」
「うん、ダメだねこれは。僕たちが慣れるしかなさそうだ」
「さっきからお前ら何言ってんだ？」
未だ固まって動かない天馬をはじめ、皆どこか様子がおかしい。本当に、何にそんな動揺をしているんだろう。まさか今のが初めて言われたありがとうとかじゃねぇよな。
「な、なんでもない。ほらえむ、早く案内しよ」
「あ、おいちょっと、押すな押すな！！ 自分で歩けるから、」
俺と同じく状況がよく理解できていなさそうなえむと、何故か早くこの場を離れたがっている寧々にぐいぐいと背を押され、ステージ上へと上がっていく。
観客席付近に取り残された天馬はまだ顔の熱が治まりそうにない。
「さて……司くん、彼女たちが帰ってくるまでにそれをなんとかしないとね」
「み、みなまでいうなぁ……」
類は微笑みながら唸り声を上げる司を見守る。つまるところ、スターも所詮は思春期の男子高校生なわけだ。
「なさけない……これしきのことで……」
「ふふ、君、随分厄介な相手に捕まったねぇ」
☆
「お……おづがれざまでしだ……」
「わぁっ、大変、Aちゃん声ガラガラ！ 大丈夫、あたしのど飴持ってるよ？」
「ありがとうえむ、大好き……」
「えへへ、あたしもっ！」
お日様が帰宅を始めてしまった頃合いになって、やっと練習は終わった。
正直めっちゃキツい。喉が一日にしてやられるとか何事？
俺に与えられた役目は劇のエキストラ、後は裏方作業だ。照明の位置だったり、背景の移動だったり、とにかくすることが多い。演出家である神代を初めて尊敬できた瞬間だった。
「お前ら毎日これやってんの……体力鬼過ぎるだろ」
「はは、お前もいずれは慣れるさ」
「そんなもんかねぇ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 80人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ありに(プロフ) - 5年ぶりに夢小説を漁ってたらとんでもない神作品に出会ってしまった…応援してます☺️ (2023年3月10日 19時) (
レス) id: 1064f8688a (このIDを非表示/違反報告)
ただのせかおた - 最初の注意事項とか舞台挨拶（？）みたいな感じで書いてるのめっちゃ素敵です！！お体には気をつけてこれからも頑張ってください💍応援してます！！ (2023年1月21日 23時) (レス) id: 5310fc155c (このIDを非表示/違反報告)
kubota6(プロフ) - この作品めちゃ好きです！応援してます！ (2023年1月10日 23時) (レス) @page17 id: a05e9c9f42 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
