【d!】忠誠心故に【軍パロ】 (ページ6)

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「……A。顔を上げろ」

言われた通り顔を上げると、総統は変わらずにやにやと笑っていた。

「ここで話すのもなんだ。中で話そう」

総統はくるりと踵を返し、来た道を戻っていく。はい、と冷静に返事をして、彼の後を追いかけた。

館の入り口まで続く中庭は、花壇で埋め尽くされていた。円型の花壇や、真四角の花壇の中で色とりどりに咲く花たちは、どれ一つ枯れていなく、手入れが行き届いている。
その美しさに、自然と口から感嘆の声が漏れた。

「素晴らしいだろう。私のお気にいりだ」

総統は振り返り、大きく両手を広げた。自慢げに話す総統にええ、とても、と緩やかに口角を上げる。

閣下は潜入任務が初めての私に、諜報活動をするにあたって大切なことをいくつかを教えてくれた。その一つが『出来るだけ上の者には好かれるような行動をとること』。例として人当たりのいい笑顔を浮かべるとよいと教わった。それを試しに実践してみたのだ。

総統はふふん、と鼻を鳴らして再び歩き出す。
反応は悪くない。取り敢えず、第一印象は悪くなさそうだ。
いつの間には張っていた肩の力を、深呼吸をしてゆっくりと抜いていく。これからさき、なんども重要人物とかかわることになるだろう。すこしずつでも、緊張に慣れていかなければ。

館の入り口まで着くと、総統はこげ茶色の大きな両開き扉の前に立つ。そして、ばん、と大きな音をたてて、思い切り扉を押し開けた。はいるゾ、と言い放つと、総統は館の中に入っていってしまった。音にびっくりして固まった私を気にも留めず。
普通に開けられないのか、あの人は。
心の中で悪態をつきながらも、私も館の中へ入った。

館内にはいると、天井からぶら下がる豪華なシャンデリアが、あたりを照らしていた。床にはひし形のモノクロタイルが敷かれている。そういえば、子供のころ白いところ以外踏むと死亡、とかいう名もなき遊びをしていたな。
総統はホールのど真ん中にかけられた、横に広い階段を上っていく。階段は黒い木で作られており、踊り場で左右に分かれていた。総統は踊り場まで昇りきると、左側の階段を昇っていく。ほこりひとつない階段に感心しながらも、私も階段を駆け上がった。