【d!】忠誠心故に【軍パロ】 (ページ35)

今日:9 hit、昨日:0 hit、合計:17,491 hit

<-34-> ページ35

「A」

暇だろうから、としんぺい神さんに渡された本を読んでいると、不意に名前を呼ばれた。
本から顔を上げると、あきれ顔のトントンと、デスクで書類仕事中のしんぺい神さんしかいなかった。

「その怪我やったらいつもの仕事できひんやろ」

確かに、言われるまで気付かなかった。出来ないとまではいかないが、仕事に支障がでてしまうだろう。

「やから、ちょっと特別な仕事やってもらいたいねん」
「特別な仕事……？」
「詳しいことは総統室で話すわ。立てるか？」

トントンは心配そうな顔をして、そっと手を差し出してくる。
私はその手をとることなく、自力で立ち上がった。トントンは何も言わずにただ優しく微笑んでいた。

「よく来たな。……A、怪我は大丈夫か？」
「はい、然るべき処置をしていただいので」
「それはよかった」

グルッペンはいつも通り、革製の高級チェアに深く腰掛けていた。
彼の赤い瞳に一挙一動監視されているようで、どうにも息がしづらい。

「さっさと本題に移るとしよう。お前には完治するまでの間、ロボロのもとで働いてもらう」
「え」

グルッペンの言葉に、思わず驚きの声が漏れてしまう。
ロボロ……たしか、幹部の一人だ。マーレから聞いた情報によれば、ロボロはセキュリティ室の数十もあるモニターで館内を常時監視しているらしい。そんな彼のもとで働けと言われても、業務内容が一ミリも想像できない。

頭にはてなを浮かべていると、グルッペンは思いつめた様子で話し始めた。

「あいつの生活習慣があまりにも酷くてな。飯も食わず一日中モニターとにらみ合う日が増えてきている。私たちが何度注意しても変わる様子がないんだ」

ため息交じりに話すグルッペンの顔には、心配がにじみ出ていた。
グルッペンの発言から察するに、ロボロの生活習慣をただすことが私の仕事のようだ。
とはいっても、総統が言っても聞かないような人にただのメイドがどうこうしたって変わらないような気もするけど、という思いは胸に秘めておくことにした。

「突然の事で整理がつかんだろうが……困ったらトントンに聞けばいい」
「はぁ？」

わかりやすく嫌そうな声で反発するトントンに目もくれず、グルッペンは『そういうことで！』とやたら上機嫌に総統室を出ていった。トントンは最初こそ後を追うつもりだったようだが、私を置いていけないと思ったのか、壁に持たれかかり、深く長いため息をついた。
……いつか過労死するんじゃないかな、この人。