【d!】忠誠心故に【軍パロ】 (ページ30)

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「……迷ったかもしれない」

来た道を覚えておけば帰れるだろうと思っていたのに、どこを見ても同じ景色。こんなことになるなら、マーレがいるときにすればよかったと今更後悔する。
自分一人じゃどうしようもないし、誰か探して帰り道を教えてもらうしかない。……最後に人を見たのはいつだっけ。
ええい、こうなったら適当に部屋を当たるしかない。誰かいると願って、資料室とかかれてプレートが貼られた扉をノックする。

「はい、どうぞ」

扉の奥から聞こえてくる声に安堵しながら、ゆっくりと扉を開ける。インクの香りが漂う部屋の中で、茶糸のベストを身にまとった男性が、椅子に腰かけていた。
彼は読んでいただろう本を机に置くと、立ち上がって優しく微笑みかけてくる。

「何か御用ですか？」
「あ、寝室に帰れなくて……」

どこか落ち着いた雰囲気のある彼に、自然と言葉が出ていた。

「ああ、あなたが皆さんの言っていた新人さんですね。説明してもわかりづらいでしょうから、私が案内しますよ」

エーミールと名乗った彼は、資料室の扉を開けると、どうぞ、と一言放った。彼のエスコートに、ありがとうございます、と感謝の言葉を述べて、扉をくぐった。
エーミールさんも廊下に出ると、後ろ手でスマートに扉を閉めた。紳士みたいだ、と前を歩くエーミールさんの後ろ姿を眺めていると、不意にエーミールさんが振り向いた。

「無言なのもなんなので、何か話しましょうか」

エーミールさんは城内を案内しながら、自身のことについて語ってくれた。
自分は幹部ではあるものの、特に役割を受け持っておらず、教授、という立場でこの館にいるのだという。こんなにも話しやすくて心優しそうな人が、我々国の幹部であるという事実に、自然と眉間に力が入った。エーミールさんなら、我々国よりアトロントのほうが合っているような気がする。