【d!】忠誠心故に【軍パロ】 (ページ26)

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「……お……は……きて、A！起きて！」

耳を塞ぎたくなるような大声に、ゆっくりと瞼を上げると、マーレが陽気に笑っている姿が見えた。

「お昼頃から寝るなんてずいぶん疲れてたんだね」

マーレに手を捕まれ、無理やり上体を起こされる。頭上から聞こえるはつらつな声に、意識がだんだんはっきりしてきた。知らない間に眠っていたようだ。あくびとともに生理的な涙がこぼれる。

「そんなAにいいお知らせがあります」
「何？」
「なんと……今からご飯を食べます！」

そんなにためるほどかな、という言葉は飲み込むことにした。ご飯ひとつでマーレはあんなに喜ぶんだ、変につっこまないほうがいいだろう。

「ほら、食堂行くよ！ここのご飯本っ当に美味しんだから！」

ベッドから立ち上がった瞬間、マーレが私の手を引いて走り出す。寝起きなこともあって、つまづきそうになるが、何とか耐える。元凶のマーレは、こけそうな私に気づきもせず、るんるんで部屋を飛び出した。

大きな両開きの扉の前に着くと、前を歩いていたマーレは私の方へ振り返り、両足を揃えた。

「この先が食堂ですが、Aにはひとつ仕事があります」
「な、なに？」

急に真面目な雰囲気を醸し出すマーレに、おそるおそる問うと、マーレはにっとわらった。

「食堂に入ったら、まずは大きな声で自己紹介すること！」
「……ええ？」

人差し指をぴんと立てるマーレに、腑抜けた声が口から漏れた。仕事と言われたから気構えていたのに、まさか自己紹介なんてこどもが与えられそうな簡単な仕事を言い渡されるとは思っていなかった。
そんな私を他所に、マーレは両開きの扉を、両手でばん、と開けた。

 「新人メイドを連れてまいりました！」

張り上げられたマーレの声に、食堂内にいた全員が私たちの方へ目を向ける。

「ほら、自己紹介して」

マーレに囁かれるように、口を開く。しかし、緊張のせいか、上手く言葉が出てこない。
えっと、その、と言い淀む私を、食堂内の全員が見つめてくる。

 「A、はやくはやく」

マーレは小声で急かしてくる。そんなこと言ったって、こんな大勢の前で喋ったことなんてない。けれど、早くしないとこの状況が動かないのも事実。

「あ、えっと、A、です」

ようやっと出てきた声は、大声と言いがたいほどだった。食堂はしんと静まり返ったまま、動かない。
もしかして聞こえてない……？
そんな一抹の不安は、突如聞こえてきた拍手によってかき消された。