【d!】忠誠心故に【軍パロ】 (ページ20)

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「いったいなにしたの？！」

用具室の扉を閉めるやいなや、マーレは大声を上げた。

「何もしてないよ！床を掃除しようとしたらいつの間にかいたの！」

対抗して声を荒らげると、マーレははぁ、と額に手を当てた。

「ゾム様の警戒心があそこまでとは……見誤ってた私も悪かったわ、一人にしてごめんね」
「マーレは何も悪くないよ、私がもうちょっと上手に演技できてたら……」

申し訳なさそうに謝るマーレに、私は慌てて否定した。どこか気まずい雰囲気をなんとかしようと、マーレに話しかける。

「あのゾムって人、どうしてあんなに猜疑心が強いの？」
「うーん、どう言えばいいのかな……元々はあんな人じゃなかったのよ」

マーレはそっと目を伏せ、話し始めた。

「私が入った頃のゾム様は、誰に対しても分け隔てなく優しかったわ。新人の私にも優しくしてくれて、いつだって笑顔だったの。けれど、それはあの事件から一変してしまった」
「あの事件……？」

弱い笑みを浮かべていたマーレの口元が、横一文字になる。

「ゾム様が一番気に入られてた部下が、工作員だったの。彼は我々国の情報を自分が服従していた国に渡したのよ。そして、その部下に誘導されたシャオロン様が相手国に捕らわれてしまった」

マーレの話に同情してしまいそうになった。信じていた仲間に裏切られたという心の傷は、私たちの想像を絶するだろう。

「それからよ、ゾム様があんなふうになったのは」

自分がもしゾムの立場だったら、その工作員を死ぬまで追い詰めてやりたいと思う。大事な仲間を傷つけられたぶん、やり返してやりたいと。
けれど、今の私たちはその工作員と同じことをしている。同情なんてしていい立場では無いのだ。

「……彼の対応は正しいかもしれない。けど、だからって人を雑に扱っていいわけじゃない」

さきほどゾムにされたことを思い出し、怒りを乗せた言葉を放った。

「なんと言われようとも、私はあの人をいい人だとは思えない」

頭の中に駆け巡るのは、私の友人との記憶。彼女の惨状な死体を思い出して、酷い吐き気を催してしまう。
我々国は私の大切な人を奪っていったのだ。彼らを優しい人、だなんて嘘でも言えない。それは友に失礼な気がしたから。