【d!】忠誠心故に【軍パロ】 (ページ2)

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:17,486 hit

<-2-> ページ2

「スパイ……ですか？」

私の生まれ育った国、アトロント・シティは、この血生臭い時代で珍しく治安が安定している国だ。幹部として働いていた私は、今日、初めて統領室に呼びだされた。

「ああ。潜入して欲しいのは、あの我々国だ」

アトロント・シティの大統領である閣下は、白い口ひげを指で引っ張るように撫でる。高級感の溢れ出る黒革のチェアは、閣下の権力を示しているように思えた。

「……閣下、一つだけ質問をしてもよろしいでしょうか」
「構わない」

閣下の承諾に、ありがとうございます、と一礼する。そして、腕を後ろで組み、閣下に問いかけた。

「何故、我々国なのでしょうか」

無知な私の質問に、閣下は君ならそういうだろうと思っていたよ、と微笑みかけてくれた。
君なら。閣下はそうおっしゃられたが、私でなくとも、アトロント・シティに住む誰もが同じようなことを聞いたはずだ。

スパイという仕事は、相手の重要な情報を収集するため、相手の関係者や別人に扮して潜入や聞き込みを行うものだ。たとえば、その相手がアトロントよりも広い領地、軍事力を有している格上の国ならば平凡な私程度でも理解出来る。しかし、我々国はアトロントよりも領地が狭く、軍事力もアトロントに勝っているとは思えない。真っ向から戦争を挑めば勝てるのに、我々国に潜入する意味が私にはわからなかった。
「君にとっては納得のいかないことかもしれないが、私たち……この国は、我々国と同盟を組みたいと思っている。」

……我々国と同盟だと？

閣下の発言に、一瞬、息が止まった。あり得ない。ただ、その一言だけが脳内に浮かんだ。
あり得るわけがない、だって、あの国は。

放心状態の私に、閣下は理由を説明しよう、と黒革のチェアから立ち上がった。