No.84 ページ41
.
そろそろと左手を差し出すと
燈矢くんはひざまづいて
薬指に、ゆっくりと指輪を通してくれる。
通し終わると、極め付けに彼は
手の甲に優しく口付けてきた。
まるで自分がお姫様になったみたいで、
燈矢くんが王子様みたいで、
『っあり、がとう』
嬉しさと照れくささで上手く呂律が回らない。
「ん、サイズは？」
『……ぴったり』
まるで私のために
オーダーメイドで作ったのではないかと
錯覚しまうくらいサイズは合っていた。
薬指についた指輪をまじまじと見つめる。
深みのある青は、彼の瞳を感じさせる。
値段こそわからないけれど
二人の結婚指輪はこれがいい、と強く思った。
『あの、』
レジのおじいさんに話しかける
『これ、いくらですか……？』
すると新聞から顔を上げてこちらを一瞥した後
再び視線を下に戻し、
「ガラクタだから好きに持っていきなさい」
とだけ言ってきた。
「よかったじゃねぇか」
『でもなんとなくタダでもらうの申し訳ない…』
「はは、どこまでもお人好しだなァ」
『だってこんな綺麗な指輪なんだもん』
きっと前の持ち主も、
手放すのが惜しかったに違いないと思えるほど
私には価値のあるものに思えた。
「……なら、大切に使えば
少しは対価になるんじゃねェの？」
『……そっか、たしかに！』
私と燈矢くんの、愛の証。
名前も知らない"蒼い"宝石は、
2人の薬指でひっそりと輝いている。
『おそろい、だね！』
「ハッ、好きだなァ、それ」
『うん、好き！』
無個性だと彼に告げた日のことを思い出す。
「言ってなかったんだけどさ、
俺、個性と体が合ってないんだ
。
使いこなせない個性も、無個性も。
おんなじようなもんだろ？
……おそろいだな、」
そう言って寂しそうに笑う彼を
少しでも支えたくて。
『同じものを持っていれば、
独りじゃないって思えるでしょ？』
置いていかれることの怖さを知っているから
独りになることの辛さを知っているから
縋るものがない悲しさを知っているから
相手がいなくても、相手のことを想える、
二人で一つだと思える、
そういう"おそろい"が好き。
「……これからもっと増えそうだな」
『……嫌？』
「嫌じゃねェよ。むしろ嬉しいくらいだ。
いくつあっても足りねェな」
ま、一番はお前だけどな、と言い残して
燈矢くんは先に骨董品屋を出て行った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 499人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しゅん - 涙なしでは見れない作品だ…😭こんな涙腺崩壊した小説ないよぉ…！もうこれは名作と言っていいのでは！？ (2023年3月19日 19時) (
レス) @page45 id: 58dfe2492c (このIDを非表示/違反報告)
mist927(プロフ) - 燈矢だと気づいた時の…彼女の心の声…燈矢の彼女への告白のシ−ンは涙がポロポロ…で感動しました😭不遇だった燈矢をこんなにも愛してくれる女性がいてくれたらと思っていたので嬉しくて嬉しくて…素敵な二人ですね😊続きを楽しみにしております🙇 (2023年1月6日 18時) (レス) id: b76e44f0a0 (このIDを非表示/違反報告)
うに太郎(プロフ) - めちゃくちゃキュンとします😭💕続きは書かれないのですか？！ (2022年11月11日 23時) (レス) @page45 id: 717bee0437 (このIDを非表示/違反報告)
ikettyo(プロフ) - 貴方様の語彙力はどこから出てきていらっしゃるのですか…まじ尊敬します。 (2022年8月8日 20時) (レス) @page45 id: 6e023ebe5b (このIDを非表示/違反報告)
無名 - 冷夏さん» そう言っていただけて嬉しいです〜😭‼️‼️ありがとうございます！！ (2022年6月9日 5時) (レス) id: f09d5f8a63 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：無名 | 作成日時：2022年3月27日 7時
