GrimMaker 2【浦島坂田船】

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｢おはよう｣


昨日はあのまま月を見て眠ってしまっていた。
基本的にこちらに居た時の生活は眠れない時があったので、眠れるだけ幾分かはマシだった。

私の部屋に入って来た父親はきっと出勤前なのだろう。
綺麗にされたスーツに身を包んで気持ちの悪い笑みを浮かべながら私に近付いて来る。

私の両親は顔立ちが良いとされてきたのだから、笑い掛ければ異性に良いようにされるのは知っていた。
けれど、私からしたら気持ちの悪いことこの上なかった。

この世で一番醜悪な心を持っている人間が笑うだなんて悍ましい。


｢……お、はようございます｣


ボソリ、と小さく呟いた声は父親に届いていたらしく、珍しく機嫌を良くした。
皿に置かれた一つの小さなおにぎりを私の目の前に置く。
それとコップに入ったたった少しの水。


｢飯だ。俺は今から仕事に行く｣

｢……はい｣

｢返事が遅い！｣


私の返事が少し遅かったことに父親は腹を立てて私を好きなように殴り始めた。
昨日の仕事でストレスでも溜まったのだろうか。

せっかく四人が私の痩せ細った身体そ心配してご飯を食べさせてくれたのに。
傷なんてつかないように守ってくれていたのに。
それなのに、こうも簡単に身体には小さな傷が少しずつ増え始める。

今の私を見たら彼らは何て言うのだろうか。


｢昨日はハロウィンだからか帰って来ないつもりだったのか？｣

｢……き、のう｣

｢誰だか知らない男を連れて遊んでいたんだろ？お前のクラスメイトが心配してくれたのになァ｣


ああ、そうだった。
所々しか覚えていないが、意識が朦朧とする中クラスメイトは私の母親に言っていた。

｢Aちゃんが！公園でボロボロになって倒れて……！男の人達と遊んだ後に…！｣

よくもまぁ丁寧に嘘を吐いて、うらたさんたちと一緒に居たことを教えたと思う。
意識が無かったのはクラスメイトのせいだし、うらたさんたちは私を最後まで守ろうとしてくれていたのに。

顔を殴られて、腹を蹴られて。
父親は少しすると満足したのか、少し緩んだネクタイを締め直して部屋から出て行く。
私は、手足の拘束が取れない限りはこうしてここで大人しく黙って待って居るしかないのだ。

私の力ではこんな鎖なんて引き千切れないし、逃げようとしたものなら殺されてしまうかもしれない。

その恐怖のせいでまともな思考にも至らないし最善策も分からない。

皿に置かれたおにぎりなんて、何の愛情も感じられなかった。

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