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夕日が私の影を長く伸ばす。道場の中には、私と長く伸びた私の影しかない。道場内は静かだが、辺りからはキリギリスの鳴き声が聞こえる。
「会」の体勢を保てば、弽からキチキチと音が鳴る。的は一つ。矢が離れる瞬間、カーンというという高い音が響く。その音を追うように、的に矢が刺さる音がした。
一呼吸おいて弓倒しをする。そのタイミングで誰かが道場に入ってくる音がした。
「Aちゃん、そろそろ暗くなってきたけど帰らなくていいの?」
小柄で小太りな中年女性が、エプロン姿で私にそう話しかけてきた。この人はこの弓道場の経営者で私の遠い親戚だ。
エプロン姿ということは、もう普通の家庭は夕食の準備をしている時間か…。弓道をしている時は、基本何も考えていないから時間が早く経つ。
夕食の準備をしていたのにわざわざ私に声をかけに来たので、少し申し訳ない気持ちになった。
『すいません。もう帰ります』
「謝らなくていいのよ。ただ日も暮れそうだし、Aちゃんのご両親が心配するでしょ?女の子だからね」
人の良さそうな顔で言ってくるので、思わず本音が漏れてしまった。
『本当に心配してくれてるでしょうか…』
「…当たり前でしょ。自分の子どもは何歳になっても可愛いものよ。心配しないわけないじゃない」
この人はいつも私の欲しい言葉をかけてくれる。私の両親が言ってくれてるわけではないのに安心する。
影を伸ばす夕日は私を優しく包んだ。
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作者名:まちこ | 作成日時:2023年4月8日 20時