彼と彼のオフタイム ページ1
待ち合わせは渋谷駅彼の前。
平日なのに、結構な混雑具合の構内でも、彼は埋もれずキラキラと浮き上がる。
「スゲーな」
ストローが外れて思わず漏れた声。
まさか聞こえはしなかったと思うけど、彼は俺の方を振り向いた。何気なく近づいてくるけど、サングラスに隠れた瞳はきっと笑ってる。だって口がにやけてるから。
「よく気づいたじゃん」
「すぐ分かるよ、良い匂いするから」
持っていた珈琲を手ごと握られて、アヒルみたいな口でストローを咥える。
あ、間接キス…
「あまいね」
ふんわり笑うさくらんぼの唇。
早くキスしたくて、体当たりした俺を抱き込んで、まずは秘密の場所へと移動した。
こんな所でキスしてるなんか、誰も思わないだろうな。
駅ビル駐車場の非常階段で、中途半端な階の踊り場で。
キスに夢中になりながらも、耳はぴんと張りつめて。
だからこそ、余計に、響く…
お互いを欲しがって絡まる舌の音が。
さくらんぼの唇の中の、ぴんく色のそれも甘い。
夢中になって味わう俺を、からかう声も甘い。
「甘いコーヒーばっか飲んで、かわいいキングだよね。」
可愛いで売っているくせに、お茶ばっか飲んでるお前はおじいちゃんだよな!
そんな悪態も蕩かされて、どちらの方に飲み込まれたのか分からない。
カンカンカン、
靴音が濡れた耳に響いてきて、慌てて舌を引っ込めた。
首に回していた腕もほどいて、体を離そうとするけど…
「おい、離れろって!」
こそこそと文句を言っても、腰に回った腕は中々外れない。
「だって、これじゃ…」
ジャージを着こなすおしゃれ感台無しのふくらみ。
「帽子かぶせとけば?」
「やだよ、どっかの芸人みたいなの。」
「早くいこ、見つかる!」
「マジかよ…」
仕方ないから、着ていたGジャンを貸してやる。
お気に入りのそれが、目隠し用になってしまうのは中々複雑だ。
しかし…
パッと着てもお洒落になっちゃうのがホントに好きだし羨ましい。
「そっちは大丈夫なの?」
「へーきだし、俺は慎み深いんだよ。」
「ジャージより抑えが効くもんね。」
…失礼な!
むっと口を尖らせると、宥めるようなバードキス
「行こ♪」
そう、話し声はすぐ傍まで迫ってきているし、店の予約時間も迫っているし。
お尻をなでる手からも逃げ出すように、出口へと急いだ。
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作者名:gera | 作成日時:2016年6月17日 9時