25#懐刀の嘲笑 ページ27
(Side,黒鳶)
枸杞を始末し損ねた。
やはり、本部で上位成績を保っていただけあって手強い。術式の回路伝達速度において、彼女の右に出る者はいなかった。
「枸杞……貴様は愚かな小娘だ」
眠る枸杞。
この細首に手を掛ければ、死ぬ。そうせずとも、人工呼吸器を取り外せば……。
「お前、枸杞に手出したら容赦しないよ?」
ハッとしてベッドの傍らに目をやると、其処には彼女の刀である“堀川国広”がいた。
浅葱色の瞳は爛々と煌めき、殺気立っている。
「何故持ち主の許可も無しに____」
「この子は意識世界を安定的に保てるから、ちょっと許可貰って来てるよ」
「……」
「まあ、お前がしたいことは分かったよ。枸杞をどうしても殺したいんだってね?」
「くっ……」
食えない奴だ。
持ち主がああならば、刀も似るのか……!?
腹の底が読めず、何となくで行動する適当者。この刀も掴み所がない……。
肩を震わせ、顔を俯かせていた堀川国広。
ゆっくりと顔を上げると、普段の彼とは想像出来ない勢いで笑い始めた。
「あはははっ!! くそほど笑える話だね!!」
「なん、だと?」
「この枸杞を! お前ごときに殺せるとでも!? 有り得ないね!! 出来る可能性があるとしても、そんなの僕が赦さない」
堀川国広はそう言うと、右手の人差し指と中指を揃え、口に当てると何かを口にし始めた。
その仕草は、彼女そのものだった。
「この声は神の息、この息は神の息、この手は神の御手。降ましますは高天原の風、神々の伊吹よ。現世と幽世を隔て光の籬と成せ____」
「!?」
枸杞の周りに強い神気を纏った結界が張り巡らされ、堀川国広が敵意を持った相手である私は弾き出された。
「枸杞に近寄るな。僕は……枸杞が真っ当に生きられる人間ならそちらに手を貸す。僕らはそちら側へは行かない。戻らない」
「……只で済むと思うなよ。貴様も、其処の枸杞も」
「いいよ、別に。全て僕が退けてやる」
堀川国広はそう言うと、枸杞の髪を一房持ち上げ、そっと口付けを落とした。
俺はそのまま踵を返し、病室を出たところで乱藤四郎と薬研藤四郎に会った。
「……」
「神無月さんの教官さんって、あなた?」
「黒鳶と、言います」
「見習いは寝てたか?」
「はい」
「そうか」
枸杞の堀川国広。
あれほど邪魔なものはない。
(彼女は優れた審神者に成りうる、脅威)
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作者名：化野燎 | 作成日時：2017年11月5日 0時
