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稲葉監督の提案で、俺はAに電話をすることになった
少し躊躇はしたものの、監督の言う通り彼女に電話をかける
3コール… 4コール…
「…もしもし」
5コール目に出たAは、少し鼻声だった
泣いてたんやろうか
「あ、Aちゃん？今電話してかまへんか？」
(勇人、スピーカーにして)
監督が俺にこっそり指示を出す
その指示通りスピーカーにすると
会議室中にAの声が響く
「はい…大丈夫です」
なんとなく、この返事だけで
Aがこのことを知っている気がした
「あー、ちょっと言いづらいねんけどな…」
「あの、週刊誌のことですか」
…思った通りやった
彼女は泣きながら
自分のせいで、俺や梅ちゃんが出場できなくなると
ひたすら電話の向こうで謝り続けている
俺が自分で撒いた種とはいえ
ある意味被害者であるAを
こんなことに巻き込んでしまうなんて…
ええ歳して俺は何してんねや…
たった1人の女の子も護ってやれない
俺はなんて情けないんや…
「A、泣かんといてくれ
お前が悪いわけちゃう
酒も入ってたし、俺が迂闊やったんや」
目の前では監督とコーチ陣が黙って聞いていて
梅ちゃんも見たこともない辛そうな表情をしていた
膝の上で拳をチカラ一杯握っているのが見える
(勇人、代わってくれ)
ふと監督が俺にジェスチャーで示した
「あ…ごめん、ちょっと待ってくれるか？」
(すまんな、少し話させて欲しい
彼女の名前は？)
(Aです)
監督はコーチたちをよそに
俺の渡したスマホを受け取って、自分の目の前に置いた
「もしもし、Aさん？初めまして、稲葉です」
「稲葉…？監督？！」
Aの驚いた声が響く
「坂本から話は聞きました
週刊誌に書いてあったことはほぼデタラメだと…」
さっきまでとは打って変わって
Aは監督の質問にしっかりと答えている
俺と梅ちゃんは、そのやりとりを固唾を呑んで見守っていた
「2人で口裏を合わせている…なんてことはないんですね？」
「絶対に…ありません」
Aが強くそう言うと、監督は少し考えてから
優しい口調でAに言い聞かせるように伝えた
「わかりました、2人の言葉を信じましょう
梅野の話とも合わせたところ
どうやらこちら側にウソは無いようですから」
監督の言葉を聞いて、初めて梅ちゃんが俺の顔を見てくれた
安堵した様な、それでいて嬉しそうな表情だった
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作者名：おか(´･ω･`) | 作成日時：2021年7月4日 19時
