13話目のお話 ページ13
.
一番最初に帰ったはずの坂本が
なぜ今、藤川家に居るのか
話は4時間ほど前に遡る
騒動の後他のメンバーが帰り
ひと段落着いたところで藤川夫妻が夫婦水入らずで
コーヒーを飲んでいた時だった
時刻は深夜1時過ぎ
お開きになってしばらく経ったころに
突然インターホンが鳴った
「なんや今頃？誰か忘れ物でもしたんかな」
球児の言葉に夫人が対応に向かうが
慌ててリビングへ戻ってきた
「パパ…」
「ん？」
振り返るとその後ろに坂本勇人がいた
バツの悪そうな顔をしてリビングの入り口に立ち尽くしている
「あー、駅まで行こう思ったんすけど
スマホのバッテリー切れるし
途中から帰り道分からんなるし…」
被っていたキャップを取ると恥ずかしそうに話す
似たような住宅が多いため道が分からず
迷子になっていたらしい
「そうやったんか
まあええから、入りなさい」
球児が立ち上がり大きく手招きする
どうぞ、と夫人に促され
坂本がリビングに足を踏み入れると
目の前のソファでAがスヤスヤと眠っていた
「あ…」
坂本の目線はAにあった
それを見た球児はふっと笑う
「あれから皆んな解散したんやけど
Aちゃんは叩いても揺すっても
起きんかったんや」
球児は冷蔵庫から『呑むか？』と
缶ビールを1本取り出した
「いや、大丈夫っす」
坂本はそのままダイニングの椅子に座る
コーヒーを淹れてもらい
今後の野球界の話や坂本自身の話
今日来たメンバーの話
倒れてしまったAの状態など
普段話す機会のない2人がじっくりと腰を据えて話す
特に、今日の梅野の様子については
球児も心配していたようだ
「梅は冷静に判断できる眼を持ってる
そんなあいつが坂本くんになぁ…」
いつも冷静なはずの梅野の変わり様に
球児もいささか不安を覚えていた
「もしかしたらあいつなりに
思うところがあったんかもしれん
本人に直接聞いたわけやないけどな」
「そっすね…梅野があんなに食ってかかってくるなんて俺も正直、驚きました」
『気ぃ悪くせんとってくれな』と球児は坂本に声をかける
はい、と応える坂本
自分も迷い苦しんだ過去がある
プロの世界で生きて行く厳しさ
それはプロである自身たちにしかわからない
しかし、プロとして
誇りを持って戦っている者同士なら
共感し、協力し合い、助け合うことも出来る
例えばそれが野球以外のことだとしても
球児のような先人たちの
その大きな背中から学んできたように
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 115人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おか(´･ω･`) | 作成日時：2021年7月4日 19時
