獪岳と同期の子の話

三日目 甘えたい ページ26

｢着物、よく似合ってる｣


眉間にシワを寄せて、眉毛は少し下げて。
寂しそうな顔をしている獪岳。



｢昨日も聞いたよ、それ｣

｢ハァ...昨日は俺じゃなかった。
お前もAじゃなかっただろ｣

｢...どうして、｣


どうして、獪岳はわかるの？私が思ってた事。


｢昨日の化粧も似合ってた。綺麗だ、A｣


優しく微笑んで獪岳が私の頬を撫でる


｢...獪岳が、選んでくれたお化粧道具じゃない。
似合わない訳が無いわ｣


お化粧道具はいつも獪岳が選んで買ってきてくれる。
獪岳が選んだもの以外を付けると彼は機嫌が悪くなる


...顔に熱が集まってくるのがわかる。目が合わせられない。どうしよう、恥ずかしくなってきたわ。


困って目を泳がせていると、獪岳がフッと笑った。



｢恥ずかしいのか？顔真っ赤だな｣


にやり、といつもの悪どい笑みで煽ってくる。
あぁ駄目よ。その顔も好きだもの...




｢....貴方似合わないわ、そういうの｣


獪岳が優しく微笑んで素直に人を褒めるなんて...どうかしてる。私まだ夢の中にいるの？


獪岳の腕から逃れようとモゾモゾ動くと、ガシッと腰を掴まれた。


｢俺の頼み聞くんじゃなかったのかよ。大人しくしろ｣

｢なに、それ...｣


こんなのが頼み事？獪岳になんの得があるの？
私が恥ずかしいだけじゃない。

｢やだ、はなして｣

｢逃げたいなら頑張れ｣

｢ちょっと...！｣


旅館の仲居さんが朝餉を持ってきてくれるまで、
私と獪岳のこのやり取りは続いたのだった。

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