じゅうきゅう ページ19
自分で言った言葉で気づいた。
さっきから朝光の言うことはどうにもおかしなことばっかりだ。
そのくせ、本人は真面目に言ってるからタチが悪い。
冗談だったら、私だって笑い飛ばしてあげたけど
そうしないのは、朝光が至って真剣だから。
どうしてだろう、どうして朝光はこんなにも、何も知らない？
明らかに変なのはさっきから気付いている。
外見だって中身だって、どうしたっても普通じゃない。
「ごめん...」
朝光が呟いた。
どきりとした。
咄嗟に目を逸らしたのは、私に向く表情が変わったのに気づいたから。
「ごめんなA、なんもわからんくてごめん。怒らせたなら謝るけど、でも嫌いにはならないで。」
声は消え入りそうなのに、私の手を掴む指先には力が込められていた。
...心臓が重く鳴る。
少しだけ、奥歯を噛み締めた。
馬鹿らしいと思うなら、この手を振り払って走って逃げればいい。
またあの屋上に戻って、縁から足を踏み出せばいい。
一度は行くと言ったけれど、それでも私が会ったばかりのこの人のわがままにいつまでもついて行く義理はないんだ。
嫌ならやめればいい、それだけだ。
でも、どうしても、手を振り払うことはできない。
『だいたい自転車で行くって、どれだけ時間がかかるかわかる？今日1日じゃ無理だよ。ぶっ通しで漕ぎ続けられるわけでもないんだし。』
俯いた目線の先には、繋いだ私と朝光の手が見える。
真夏の空気のように熱い私の手と
真冬の雪のように冷たい朝光の手。
全然違う温度だから、そこにあるのがよくわかる。
「時間がかかるか、だから無理だって言うのか？」
『そうだよ。遠いんだもん、大変だよ』
「でもそれって時間がかかるだけなんだろ。時間をかければ行けるんだろ、大変だけど」
『まあそうだね、大変だけど』
「だったらいつかは、辿り着くんだろ」
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作者名：Moon39 | 作成日時：2023年1月4日 1時
