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遠のく意識の中で私はそのまま悟さんを忘れていった
これでようやく本当の気持ちを隠して生きていける
そう思った
__それなのにその日は突然訪れた
「私は五条家の侍女にございます」
そう名乗る女性が私に話しかけてきた
その人はまるで私を昔から知っているかのような口振りで
私もどこかでただならぬ縁を感じた
けど……
「背後に気を配らないような人間が
五条家当主夫人の側近頭だったとはね」
夫が……
羂索がその人を刺して死なせてしまったことが引き金で
私は全てを思い出してしまった
「常磐……貴方の分の仇もとってくるわ」
私に残された時間は僅か一日
「1人で死なない……あの人も道連れにしてやる……」
でも羂索の居場所は分からない
突然現れては突然消える夫を呼び出す方法は1つ
加茂家を半壊させること
「……奥様…いかがなさいま……っ!?」
次々と聞こえてくる悲鳴をよそに
私は加茂家をこの手で襲撃した
「何をなさるのですか奥様!!」
「お黙りなさい!私は五条家の人間です!!
五条家に帰ります!!」
もう、ほぼ、やけくそだった
どうでもいい
どうなってもいい
いずれ私は死んでしまう
唯一の悔しさは悟さんが獄門疆から出てきていたこと
私が祖先達との約束で記憶を失っていた間に
悟さんが思わぬ早さで出てきていたなんて知っていたら
いや、知ってても知らなくてもどの道答えは変わらなかった
出てきたからと言って人妻になった私を取り戻そうなんて
いくら悟さんでもしないと思ってる
御三家に亀裂を入れることは避けたいだろうし
他人の子を身篭ってるなんて知ったら愛想だって尽かされる
そんな気持ちを目の当たりにするくらいならと
私は結局変わらない道を選んだと思う
それでいいの
それで良かったの
ただ、最後くらいあの人に会いたい
遠くからでいい
死ぬ間際に焼き付ける光景は悟さんがいい
「家の者が死に物狂いでくるから
何を仕出かしたのかと思えば……A」
いつの間にか夫は目の前に立っていた
「お願い…力を貸して」
【良カロウ】
一瞬にして私の髪の毛は白髪にかわってしまった
息もしにくいし、苦しいし
その場に落ち着いて立てるような感覚でもなかった
「君がそんなものに手を出していたとはね」
羂索は嘲笑うように私を見てきた
半分身体を取られてる私は
自分を保つことに精一杯だった
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