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「なんてことするの…傑……」
「何度も言っただろう。五条家に許可なく関わるなと」
「だからって……だからって!!
人を殺していい理由がどこにあったのよ!!!!」
その瞬間、私の記憶のどこかで
前にもそんな言葉を傑に投げかけたのを思い出した
「……?、」
そんなことが前にもあったっけ
「……傑じゃないみたい……」
思わず出た言葉に可笑しそうに笑うその人は
どこか恐怖を覚えるほど別人に思えた
「何を言い出すかと思えば…。
夫である私がそんなに信用ならないのかい?」
「人を殺すだなんて…貴方がするような人に思えないのよ」
「そうして理想ばかり押し付けたから
少年の気持ちが分からなかったんじゃないか」
その一言があまりにも冷たかったからか
一瞬にして後悔と悲しみが溢れて
気がつけば涙が自然に流れ落ちていた
「君は呆れるほどよく泣く子だね。
甘やかされて育った世間知らずがよくわかるよ」
「……どうしたの傑、いつもと違うわ」
「五条家に傾倒するからだろう。
そんなに五条家に肩入れするなら悟に会っていたことを
許しておくんじゃなかった」
そうして私の腕を勢いよく引っ張ると
傑は私の懐に手を入れて
五条さんから預かったハンカチを取り出した
「こんな布切れごときに騙されて」
「…やめて!」
取り返そうとするけど到底届くはずもないと思った時
傑は私を抱きしめてきた
「私が嫌なのかい」
「………そんな事ない」
口ではそう答えるのに私の胸はそれに違和感を覚えてる
「帰ろうA、私達の家に」
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それから家に戻っても常磐のことが頭から離れなかった
「何で傑が人を殺すのよ」
それがぐるぐると回っては助けられなかった後悔と
言葉で言い表せない悲しみと恐怖が私の胸を巣食う
傑はそんな人じゃない
何かの違和感とあの時の冷めた顔が過ぎっては消えていく
そもそも常磐って誰?
そう思った時、私は突然ある記憶が脳裏に流れた
10年以上も前、五条さんと婚約し
2人でぶつかり合いながらも共に歩いてきた事
その時に五条家の妻として私を教育したのが
巴と名乗る女性であったこと
そして常磐はその娘で側を仕えてくれたこと
恵と津美紀という姉弟を可愛がって育てたこと
そして百鬼夜行と呼ばれる思い出したくもない記憶と
体の半分が痛々しい姿を抱きしめ
これから起こること
今までのことが込み上げて
泣いている私を優しく抱きしめる傑がいたこと
それが最期であったこと
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